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「……はぁ…はぁ…」
傷だらけの身体を引きずりながら歩く少女。町中は何やら騒がしい。
アニマの逆展開により、エドラスの魔力がアースランドへと流れ出る中、エドハルはひとり冷静にその場を見つめていた。
「…魔力なんかなくても……っ」
『魔力はもらっていくよーん!』
「……っ」
聞き慣れた声に目を見開く。騒ぐ大衆の視線の先には、にっと笑うハルの姿。
「この世界の魔力はこの大魔王ドラグニル様がいただいていく!!」
「……ナツ?」
彼女の隣にはギルドで見慣れた仲間の姿。見るからに横暴そうで、野蛮な言葉使い。
「アースランドのナツ…」
『あんたらの王はあたしらが仕留めた!』
屋根の上に貼り付けにされているファウストに、民衆はざわざわと一層騒ぎ始めた。
「…父様が……」
"すべて終わらせる。そうすればあんたは…ハルはまた、みんなと楽しく過ごせるでしょ?"
「約束を…守ってくれたのですね…っ。」
口元を覆い涙ぐむエドハル。
ひとりの民がハルの姿に眉をしかめた。
「あの女…あの方は姫様だ!」
「本当!あのお姿はハル様よ!!」
「何故姫様が…っ」
徐々に騒ぎ始める民衆にハルは一層声を張り上げた。
『あたしはこの国の姫などではない!』
「……ハル」
『そんなによく似た容姿であるなら、いっそ手合わせ願いたいねっ!おんなじ顔は二人もいらない、ぶっ飛ばしてやる!!』
ぐっと拳を握りしめるハルを見て、民衆たちは慌てて首を振った。
「姫様があのような言葉使いをするはずがない!!」
「姫様はもっとおしとやかだわ!」
『……。』
民衆たちの反応に少しだけ肩を落としながら苦笑する。同じように暴れるナツやガジルも呆れたように笑っていた。
「あいつらが…あいつらが魔力を奪ったのか!!」
「許せねぇ!魔力を返せ!!」
「やだね。オレ様に逆らうものは…」
口から火を吹き彼らを威嚇する。あり得ない出来事に民衆は逆らう意欲をも無くしてしまう。
「やめろ!ナツ!!ハル!!」
『……っ、ミスト…ガン』
城から聞こえる叫び声。次々と建物を破壊していた手を止める4人。
「あれは…?」
「……誰?」
突然の声にざわざわと声をあげる民衆。
「バカな真似はよせ!王は倒れた…これ以上王都に攻撃など!」
「おまえにオレ様たちを止められるかなァ?エドラスの王子さんよォ?」
"王子"という言葉にざわめきは大きくなる。真実を知らなかったハルも、このタイミングで目をまるくするのだった。
『ミストガンが…エドラスの、王子?……なら…』
"兄様と城を…抜け出しました。本当は兄様と共に行きたかったけれど……、兄様はそれを許しては下さらなかった…っ!"
『エドハルの兄様って…』
ナツの言葉を信じきれない民衆の間を、走るミストガン…否ジェラール王子。
「兄様…が、何故…ここへ……」
ふらふらと騒ぎの中心へと歩みを進めるエドハル。そんな彼女を見つけた民のひとりが声をあげた。
「ひ、姫様!?」
「…っ、違…」
『あんたがあたしにそっくりな姫様?』
否定する間も無くハルによって遮られてしまう。民衆の前に立ち尽くすのは、ナツと向き合うジェラール王子とハルと向き合う姫。
『ミストガンが王子だなんて…予想外だけど、あたしはやりたいようにやらせてもらう!』
「…っ」
「本気でこいよ、ジェラール王子。」
「くっ…ナツ!」
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