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「早くしないと始まるぞ?」
『待って待ってぇ。』
もぐもぐと口を動かすハル。急かすアイスに返事をしながらも、一行に急ぐ様子はない。
今日は大魔闘演武三日目。すでに競技パートが始まっているであろう時間となっていた。
『てかこれだけ実況がうるさけりゃ、ここでも聞こえるよぉ。』
わっと湧き上がる上がる歓声。ハルはたこ焼きを頬張りながら笑った。
エルザの名をコールする会場。その声を聞きながら、もう一つたこ焼きを口にした。
『そんなことより…あの女。』
ハルが思い出すのは昨夜、剣咬の虎で会った女魔導士。ハッピーを人質に取り、ナツを屈服させる卑怯な手を使っていた。
しかし、彼女の魔力はそのようなことをせずとも、十分な強さを感じるほどのものだった。
『あいつは…あたしがやってやるんだから。』
「ハル…?」
アイスが名前を呼べば、少女は何でもないと笑いかけた。
「水竜(ウンディーネ)…。」
『……?』
ハルを見下ろす人影。最後の一つを頬張るハルは、目をまるくしてそれを見上げた。
「…久しぶりだな。」
『………?』
首をかしげるハルに男は困ったように笑いながら名乗る。
「俺は評議院諜報部、ドランバルトだ。」
『評議院?あたし何もしてないよ…?』
昨夜のことを思い出しながらも、冷や汗を流すハルに、彼は思わず吹き出した。
「別にあんたを捕まえにきたんじゃない。俺はあの時の礼を言いたくてな…。」
『あの時の…?』
"あんたはあんたの仲間を護りなよ。あたしたちは大丈夫。"
「あの時、あんたに言われたおかげで…仲間を助けることができた。感謝している…。」
『…何の話してるの?』
全く話のわかっていないハルを、気にすることなくアタマを下げるドランバルト。
「また会えて…よかったよ。」
『………また…?』
それだけ言うとドランバルトは背を向け歩き出す。
『待って!』
「……。」
立ち止まるドランバルトにハルは、駆け寄ると彼の前に立ちどまる。
『あんたが誰だか思い出せないけど、どーいたしまして!あと…』
「…っ!」
驚く彼を見上げたハルはふわりと笑った。
『また会えてよかったって思ってくれて嬉しいよ!ありがと!!』
「ハル!ラクサスの試合だってよ!!」
『えっ!!?』
アイスの声に慌てて走り出すハルに、その小さな背中を見送る彼は笑みをこぼしたのだった。
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