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「……ん…っ」
ゆっくりまぶたをあげる。起き上がって気づいたのは右手の温もり。見れば寝息をたてるハルが、ぎゅっと手を握っていた。
「……傷の治りがはやい…」
「そりゃそうだ。ハルが治癒魔法を使ったんだからな」
「…アイス」
ちょこちょこと入り口から歩いてくるアイスに名前を呼ぶと、少し嬉しそうに表情を緩める。
「やっと名前呼んだなぁ!グレイ、ずっとハルのことばっかでさ!」
「なっ…」
「おれのこと見えてねぇのかと思った!」
けらけらと笑うアイスに恥ずかしそう慌てるグレイ。ここは村人たちが避難した格納庫だとアイスが説明してくれる。そこでハルも静かに目を覚ました。
『おはよー、グレイ大丈夫?』
「お、おう…ありがとな」
『大したことじゃないよ!』
ふわりと笑うハルに思わずどきっと胸を高まらせるグレイ。アイスに言われた言葉を意識しすぎているようす。当のアイスはそんな彼をにやにやと見上げていた。
『それよりね…』
「………」
「どうした?」
しょぼんと項垂れるハルを不思議に思ったグレイが尋ねると、困ったように眉を下げながら告げる。
『来たの……、エルザが。』
「………なっ!!」
遅かれ早かれ来るとは思っていたが、まさか自分が寝ている間に来てしまったエルザにどうしようか頭を抱えるグレイ。アイスの話によれば、そう村人から聞いただけでまだハルもアイスも会っていないようだ。
『グレイが覚めたら行こうと思ってて…。そしたら寝ちゃって…』
へらっと笑うハルの頭をくしゃっと撫でるとゆっくり立ち上がる。
「なら、行くか…」
グレイの言葉に嫌々立ち上がるハルはアイスを腕に抱いてテントを後にした。
「大体の事情はルーシィから聞いた。」
ひときわ大きなテントに入れば、縄でくくられたルーシィとハッピーの隣にどんっと座り込む赤い髪の女性・エルザ。
「おまえはナツたちを止める側ではなかったのか?呆れてものも言えんぞ。」
「な…ナツは?」
「それは私も聞きたい…」
グレイを真っ直ぐに見つめていた鋭い瞳は、彼の背後に立つ人影へと移った。
「おまえがついていながらこの様か、……ハル!」
『……エルザ』
アイスを抱く腕に力が入る。
「帰ってきて早々何をやってるんだ、おまえはうちのギルドでも有数の魔導士だ。そのおまえが一緒で何故こいつらを止められない!」
『………』
「いつまでたってもおまえは甘いな!こいつらはマスターを裏切ったんだぞ、力ずくでも止めるべきだろう」
「お…おい、エルザ…」
冷たく言い放つエルザに見かねたグレイが止めに入るが、ハルはアイスをグレイへ押し付け前へ出た。
『話、ルーシィから聞いたなら…わかるよね?この仕事終わらすのなんて簡単だよ。』
「そういう問題ではない。ギルドの掟を破ったこいつらの味方をするのか?」
『……あたしはいつだってみんなの味方だ』
睨み付けるエルザを真っ直ぐ見やるハル。あまりの場の冷たさにルーシィは心の中で叫び声をあげていた。
かっとなったエルザは手に魔法剣を取り出しす。
「おまえまでギルドの掟を破るつもりか!!」
その切っ先をハルの右胸、紋章に向けるが、ハルは一歩も退かない。ただ真っ直ぐにエルザを見ていた。
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