02









あちらこちらで響き渡る爆音。急いでキャンプへと戻るハルとアイス。そんな二人の前に…



「フェアリーテイルの魔導士!」

「殲滅してやる!!」


突如空から降ってきた幾人もの人間に、思わず空を見上げてしまうハル。何かの影は通ったが、それがこの人数を運べる大きさではないことは一目瞭然だ。

『今、S級試験の最中なんだけど!』

「こいつらが侵入者か…!」


ハルたちの声に耳も傾けない彼らは、一斉に飛びかかってくる。
ただ片手を薙ぎ払えば勢いよく大量の水が彼らを襲う。


「な、なんだ…っ!?」

一瞬にして木々へと飛ばされる仲間たちに、動揺を隠せない彼ら。ハルは口角をあげると、背後に幾つもの魔法陣を作り出し、にっと笑った。


『フェアリーテイルに喧嘩売ったんだ、覚悟しなよぉ!』




























『さっきからあちこちでおっきな爆発が起こってるけど…、みんな大丈夫かな?』

「これくらいのザコ相手なら大丈夫じゃねぇの?」


『…こいつらだけだといいけど。』

ハルの歩く道には幾人もの相手が、彼女の相手によって力尽きていた。そのうちのひとりがわざとらしく声をあげて笑う。


「俺たちだけなわけねえだろ…!俺たちは悪魔の心臓(グリモアハート)…っ、ここにはすでにグリモアハート最強である…煉獄の七眷属が上陸している……、貴様らに…勝ち目など…ない。」

『グリモアハート…?』

「おまえら闇ギルドの人間だったのか!?」

手を出してしまった後に知った驚愕の事実に、開いた口がふさがらない。アイスはどうしたものかと頭を抱える。



『何しに来たの?』

「……我らの目的は、ゼレフ。」

『ゼレフ…。そう、色々教えてくれてありがと。』


それだけ言うと倒れこむ彼を放って海岸へ向かって歩みを進めた。
慌てて後を追うアイスがどうするのかと尋ねるも、彼女に考えなどあるはずもない。



『煉獄の七眷属がどんなもんか知らないけど…みんなが心配。まずはみんなを探……っ!?』

嗅ぎ慣れた臭いに言葉を詰まらせる。わずかに臭いに混じった血の臭い。ハルは迷うことなく崖を滑り下りていった。


「どーしたんだよ!ハル!」

『この臭い…っ、……!?』




目の前には倒れこむ仲間。見たことがないほどに傷だらけのマカロフに、ハルは栗色の瞳を揺らす。

『じ、じいじ…?だ、誰が…っ』

「ひでぇ…」


かろうじて息はしているが、見るからに重傷であるマカロフへハルは迷わず治癒魔法をかける。




『…き、効かない。』

ハルの治癒魔法をもってしても直すことの出来ない傷。ぐっと拳を握りしめる少女に、アイスが駆け寄る。


「ハル、とりあえずキャンプに……っ、ナツ!!」

『…!?』

アイスの言葉に顔をあげれば少し離れた場所で倒れこむナツ。もつれる足を必死に出しながら、彼の元へ急ぐ。


『何…この魔力…。』

感じたことのない強い魔力にハルは目を細めた。同じく治癒魔法をかけるが、何故か彼にも効かなくなっていた。



『な、なんでよ…っ!』

「落ち着け!ハル」

『落ち着いてなんていらんない!治せない…っ、どーすればいいの!?』

傷だらけの二人を前にハルの胸は激しく上下する。いつになく荒い呼吸に、アイスは以前楽園の塔での出来事を思い出す。




その場にいなかったアイスは、後日ナツに聞いたのだ。ハルの魔力が膨張し、あのジェラールをひとりで圧倒した、ということを。

瞳は臙脂色に染まり、光を失った状態のまま、敵へと襲いかかる。

まるでハルとは思えない姿に、恐怖を感じた…と。


"人の死"、"別れ"に敏感なハル。精神はまだ不安定なものであり、大きなショックにぶつかったとき、彼女はまだそれをコントロールすることができていない。

自身の治癒魔法で助けられない家族を目の前にして、果たして今の彼女は…。





「……ハル…っ?」


おそるおそる声をかけるも彼女の反応はない。ぷるぷると震える拳と荒い呼吸。

アイスは彼女の膝へそっと手を添える。


その瞬間、びくっと身体を震わせたハルは、目を見開いて彼を見下ろした。



『あ…、アイス…。』

「だ、大丈夫か?」

心配する声は震えており、膝に、添えられた手からも、彼の不安が伝わってくる。


『…大丈夫。ありがと、アイス』

安心させるように微笑み、彼を抱き上げた。




しかしこの現状は変わらない。

治癒魔法の効かない傷だらけの二人。ハルはアイスを抱きしめたまま、眉をしかめる。


「…っ、…ハル……か?」

「『……っ!?』」

その声に顔をあげれば、息も絶え絶えにハルの姿を確認するマカロフ。開いた瞳にハルの不安はわずかに取り除かれた。



『じいじ!!しっかりして!あたしの治癒魔法じゃ、二人が治せないの!誰にやられたの!?』

「……相手は、グリモアハート。ギルドマスターは…、2代目…プレヒトじゃ……っ。」

『……2代目、フェアリー…テイルの…っ!』


ぐっと歯を噛みしめるハルに、マカロフはナツを見ながら告げた。

「ナツのマフラー…を、戻せるか?」

「マフラー…?」


いつもは白いマフラーをしているはず。見れば彼のマフラーは黒く染まってしまっている。

大きく頷きながら彼のマフラーへと手をかざす。




『…じいじは、休んでて。』

「ハル……?」

もうすでに気を失っているマカロフ。アイスは嫌な予感がしてならない。


治癒を終えたハルは、不安げに見上げるアイスを見下ろした。



『アイスはウェンディをここへ連れて来て。』

「わかった…けど、ハルは?」


アイスの問いにふわりと微笑む少女。彼の不安は大きく当たることとなった。











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