01
ためらいの橋。
そこからは正義の門が見え、それは今まさに開いているところだ。
「ハル…っ。」
ロビンの呼ぶ声に返事はない。
ここまでずっと彼女を支えてきたのは、足元に転がる少女だったのに。
かろうじて浅い呼吸を繰り返すその小さな身体は、血だらけでまるで着ている服の色が変わっている。
これだけ傷を受けて、生きているのが不思議なくらい。ハルは危険な状態だった。
「クッソ…、このガキのせいで時間を食っちまった!」
あの後、スパンダムはロビンを人質にハルの身動きを止め、反抗が出来ないまでに痛めつけた。
―――ズルズル…
ハルの身体を引きずって歩くスパンダム。そこにはくっきりと血の痕が残り、ロビンは目をそらしたくなる。
しかし……
『…に、……て。』
「っ!?」
僅かに聞こえた消えるようなか細い声。ロビンは目を見開いてそれに耳をすませる。
『…て。…しろ…に、い…から。』
「……っ!!」
にっと微笑むハルに唇を噛むと、ロビンはスパンダムに頭突きをして来た道を走り始めた。
「この後に及んで…っ!!」
倒れたままのハルを放って、ロビンを追うスパンダム。手錠によってうまく走れないロビンは、難なく捕まってしまう。
倒れこんだロビンに対し、スパンダムはゲラゲラ笑いながら言った。
「いい加減にしろよ!テメー!!死ぬことでしか人を幸せに出来ねェくせして!!」
「……っ!!」
「おれが何も知らねェと思ってんだろっ!?」
ロビンにもハルのように紐を括り付け、ズルズルと引きづり歩みを進めるスパンダム。
「20年前、バスターコールを出したのは、おれの親父スパンダインだ!テメーの首に賞金をかけたのもおれの親父!!」
ハルの元へ戻ってくると、蔑むようにロビンを見下ろす。
「何度金目当ての人間に殺されかけた?安心して寝ることも出来ねぇ、寄ってくる人間は全て信用ならねェ。そんなクソみたいな20年、おれは想像もしたくねぇ。」
「……っ!」
あまりの悔しさにぽろぽろと涙を流すロビン。彼女の髪を掴み持ちあげるスパンダムは、いやらしくニヤニヤと笑う。
「泣くほど不幸だったか?ハッハッハッ!!20年たった今、たった一人の生き残りを狩り、オハラの戦いは幕を閉じる!オハラは負けたんだァ!!!」
「まだ私が生きてるっ!!!」
「そのおまえが死ぬんだろうがよォ!!」
―――ドゴォオオン
「「!!?」」
念のためにと仕掛けていた地雷。それに誰かが引っかかった。それは誰かがここまで追って来たということ。
その爆発で海へと落ちるのはフランキー。
焦ったスパンダムは、二人に繋がるロープを掴み、慌てて門へと歩き始める。
悔しくて悔しくて、涙を止めることが出来ないロビン。ふと隣のハルを見る。先ほどまでとは大きく変化が見られるそれに、息を飲んだ。
「だぁーはっはっはっ!!よく見ておけ!この一歩こそ歴史に繋がる第一…ぽ、ぶわはぁあ!!?」
突然の爆発に手にしていたロープを手放すスパンダム。
「何者だ!?」
「橋には誰もいないぞ!」
「いないわけないだろ!探せ!!」
必死に辺りをうかがう海兵。しかし、その間も順々に撃たれていた。それは的確にハルとロビンを除くその場の者を撃ち抜いていく。
『……っ、遅…んだよ。』
「ハル!!!」
ゆっくりと起き上がるハル。
先ほどまで地を汚していた赤い痕は、かすれており、いつの間にかあれだけあった傷が塞がっていた。
『走って…ロビン。』
「ええ!!」
海兵たちが戸惑っているうちに走り出す二人。スパンダムの号令に銃を構える海兵たちに、ハルは一人振り返るとにっと笑う。
『ごめんね。』
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