01
『空島…か』
ごろりと寝返りをうつハルは、女部屋のベッドの上。他に誰もいない室内に、小さな声だけが消えていく。
<あたしたちは海賊だもん!傷ついたり倒れたりするわ。あんたがあの時、何の夢を見たかは知らないけど、結果的にあんたたちがこうして無事なら、あたしは大丈夫!信じてるもの!>
『夢で見たナミと違う…って言うより、ルフィと出会って変わったのかな?』
思い出すのは涙を流してばかりのナミ。
けれど今のナミは決して泣かない。何があっても最後は楽しそうに笑っている。
『あたしも…強くならなきゃな…』
そう呟いたハルは、いつの間にか寝息をたてていた。
―――コンコン…ガチャ
「舞姫さん、島に着い……あら」
『……スー…』
ベッドの上でまるくなるハルに微笑みながら歩み寄ると、優しくその小さな体を揺する。
「舞姫さん、舞姫さん…」
『……ん、…ぁ…ロビン?』
「ええ、島に着いたわ。みんな船を降りて待ってるわよ。」
ゆっくり起き上がるも、開かれた空色の瞳の焦点は合ってない。思わずくすっと笑うと、無意識のうちに手を差し出していた。
『すぐ…いく』
「……っ…」
ぎゅうと掴まれた手により、やっと自身の行動に気づき目をまるくする。今さらその手を退く勇気もないロビンは、黙ったまま手を預けていた。
『いこ…』
ふらふらと部屋を出ていこうとするハルの足元はおぼつかないが、ロビンは引っ張られるがままについていくのだった。
―――ドンッ…ガシャン
『ぅあ!?…何?』
強い揺れと大きな音に覚醒するハルは、ロビンの手を引きながら甲板へと出る。
メリー号の行く手を阻むかのように、巨大な船から伸びる手。前も後ろも挟まれ身動きが取れない状況だった。
『何、このネコ…』
「狐だー!!」
巨大な船の船首を見て言ったハルに、盛大な突っ込みが入る。
「おまえが"桜花舞姫"か…」
『……何?潰すよ?』
けろりと言ってのける少女を見て、騒ぎ始める船内だが、本人は気にすることなく船から降りた。
「ハル!デービーバックファイトって知ってる!?」
『ファイト?戦うの、あいつらと?』
なぜか慌てるナミに聞き返せば、首をぶんぶん振りながら続ける。
「戦うっていってもゲームで!しかも負けたら仲間が獲られちゃうっていう最悪の!!」
『…仲間を?』
ピクリと眉を寄せるハルを見ていたナミが嬉しそうに声をあげた。
「そうよね!ハルは反対よね!?」
『反対。てかそんなゲームするまでもなく、今潰せばいいじゃん。』
「おれも同感だ。」
「ハルがこんな性格になったのは、少なくともあんたが関係してるわね…」
ゾロの言葉に青筋をつくるナミに、いつもの調子に戻ったロビンが笑みを浮かべる。
「でももし船長さんが承諾したら…」
―――ガウン…ガウン
ロビンの言葉を聞き終える前に、島中に響いた二発の銃声。盛り上がる敵船と、肩を落とす麦わら海賊団だった。
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