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「コムイさんからは…なんて聞いてるんですか?」
『……わ、私が…ら、ラビさんという方の任務先に…倒れていて…、助けてくださったと。』
うつむきがちに僕を見る桃色の瞳。途切れ途切れに紡がれている言葉は、当初のハルそのものだ。
僕は食事を続けながら彼女に別の問いを投げかける。
「貴女の…、貴女は誰と暮らしてるんですか?」
『……。は、母の友人の方と、暮らして…ます。』
「…そうですか。」
やはり彼女の記憶に教団のことは綺麗になくなってしまっている。
たった数ヶ月のことだったけれど、僕に空いた穴は大きすぎるみたいだ。
嫌な考えを消すために食べ物を口へと運んでいくけど、そんなことではもちろん拭えない。
『あ、あの…っ』
「………はい?」
気づけばじっと僕を見るハル。手を止め見返すと、控えめながらも小さく尋ねた。
『な、何か運動…されてるんですか?』
「え………」
"アレンさん…は、何か運動とかされてるんですか?"
彼女の言葉に驚きを隠せない。
以前も聞いたその問いに、僕はうまく返事も出来ない。
『…あの……?』
「え、えっと……に、任務でよく動くんですよ…っ!筋トレも…よく、しますし。」
『みなさんの任務というのは、よく動くものなんですね。』
まるで初めて知ったかのように目をまるくする。
「前にも…、教えたじゃないですか…。」
『………え?』
やめろ。
「覚えてないんですか?」
言うな。
「僕ら…」
やめろ…っ
「教団の家族じゃないですか!!」
ハルをまっすぐに見つめて言った。言ってしまった。
もちろん彼女は何のことだか知るよしもないのに。
案の定ハルはきょとんと僕を見上げる。けれど僕はよっぽどひどい顔をしているのか、徐々に困ったように眉をさげた。
『わ、…私には家族なんていません!!』
「……っ…」
"大切な人なんていないもん!!"
以前唯一声を大にしたハルの言葉を彷彿とさせる。
『わ…私の、私の何をご存じかは知りません…っ。けど、そんな嘘…っ……ひどいです!!』
嘘じゃない。
たった一言なのに、今の彼女に伝わる気がしない。
僕は何も言えなかった。