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『ど…ど、どちらさまですかぁ…』
その一言に僕らは目を見開いた。ハルちゃんはまるで僕らのことを、本当に知らないかのようにかたかたと体を震わす。
彼女がこんな冗談なんて言えるような子じゃないことくらい、僕らは分かってる。
だからこそ、その言葉の意味に気がついたとき、ひどく胸が苦しくなったんだ。
「まさか…」
リーバー君は信じられないとでも言うように額に手をやる。リナリーは困惑したように笑いながら、ハルちゃんのベッドへ歩み寄った。
「何言ってるの…?冗談やめてよ、ハル。さすがに怒るわよ…っ」
『す…すみ、すみません…!でも…でも、わ…わたし』
「ハル…」
リナリーが名前を呼んでも眉をハの字にさげ、謝りながらわたわたとそう答えるだけ。
「……そんな…っ」
その場に座り込むリナリーは両手で顔を抑え、静かに肩を震わした。
そんなリナリーの肩に手を置いた後、僕はなるべく笑みを崩さないよう話しかける。
「やぁ…。僕はここ、黒の教団本部の室長をしているコムイ・リーだ。君の…名前は?」
「…コムイ!?」
ラビ君が綺麗な翡翠の瞳を見開くけど、僕はそれを片手で制し、彼女の返事を待った。
『わ…わ、わたしは、ハル・ジュール…です』
「ハルちゃん、君は何故ここにいるか思い出せるかい?」
『……わ、かりません。す…すみません。』
怖々と毛布を握りしめるハルちゃん。僕はなるべく彼女を怖がらせないよう、視線を合わせるためベッドへ座る。
「謝ることはないよ。僕らは君をどうこうしたりしないから、大丈夫だよ。」
僕の言葉に桃色の瞳をまるくして、僕をはじめ、座り込むリナリーや、懸命に笑みを浮かべるリーバー君、唇を噛みしめ悔しそうなラビ君を順に見る。
『わ、たし…どうしてここに、いるんですか…?お、おばさんは?』
「おばさんは…」
ハルちゃんの問いに僕は何も答えられない。丸っきり忘れてるんだ。僕らといた…、黒の教団で過ごした時間を…。