02
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「次の駅だ…」
『え…、はい………え?』
思わずきょとんとしてしまう。だって目の前に座る彼は思ってもいなかった人物で、何も言わずにあたりまえのように座っているから。
『な、んで?』
「……こっちが訊きてぇ。なんでおまえが届けるんだ…。」
切れ長の瞳が私を見る。任務中だったはずの神田さんが窓の格子に肘をつき、何故か私の目の前に座っていた。
『わ、私は…コムイさんが…気を使ってくれて……、…気晴らしにって』
「………」
何も答えてくれない神田さんに今度は私が尋ねる。
『ど…どうして、神田さんがこの列車に?教団に帰るなら逆じゃ…』
「馬鹿にするな。俺も任務だ。」
『……すみません』
そろっと神田さんを盗み見る。方肘をついたまま窓の外を見る彼。任務に出たのは2週間前だったはず。それに今回の任務は比較的容易なものだってコムイさんが言っていた気がする。
なのに。
『また違う任務、ですか?』
「……ああ」
試しに訊いてみるとちらっと私を見て短い返事をしてくれる。
コムイさんも私に気晴らしをくれるよりも、神田さんや他のエクソシストのみなさんにあげればいいのに。
『今度の任務は長引きそうですか?』
「……さあな」
列車が停まると同時に神田さんは立ち上がると、座ったままの私を見下ろした。
「降りるぞ」
『え…、でも私の行き先は……』
「……いいから来い」
何故か呆れ顔の神田さんに言われるがままに列車を降りる。もちろん列車は次の駅へ向かって発車してしまった。
『あの…』
「……宿屋の名前は?」
『…リポーズですけど、降りる駅が違…っあの!?』
さっさと歩き始めてしまう神田さんを呼び止めると、彼は立ち止まり少しだけ体を傾けた。
「なんだ…」
『え…?あの、神田さんの任務って…、一体…』
「……おまえに…、おまえが迷わずたどり着けるよう導くことだ」
『……………え!?』
思いがけない任務の内容に目をまるくすると、神田さんはちらっと辺りを見たあと何も言わずに私のもとへ歩み寄る。
目の前に立つ彼に見下ろされ、ハッと我にかえった。
『そんな…!私なら一人で大丈夫なんで、神田さんは休んでいてください!』
「…チッ……、どこが大丈夫なんだ。降りる駅はここだぞ。」
『………あ、えと』
指された駅の名前の看板に口をつぐむ。
「……行くぞ」
『はい…』
情けない。私は一人で列車にも乗れない。届け物も一人で出来ないなんて、恥ずかしい。コムイさんも神田さんを付けるぐらい不安なら初めから違う人に頼めばよかったのに。
落ち込む私に気づいた神田さんが前を歩きながら舌打ちするのが聞こえる。神田さんも本心は休みたいに決まってる。巻き込んだことに申し訳なくなって顔が上げられない。
手にした資料の入ったケースを両手で抱えながら、ため息をつき歩みを進めた。
「俺の任務はおまえを無事に宿屋まで連れていくことだ。わかったら黙って着いてこい。」
『…………はい』
有無を言わせない言い方に私は返事をすることしかできず、うつむきがちに唇を噛み締めた。