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木々が生い茂るなか、俺は座り目を瞑る。




"ね…ねぇ、ラビ"


アイツはあの兎を"ラビ"と呼んだ。敬称を付けずにアイツが呼ぶ名をリナリー以外に初めて聞いた。

アイツの一声でここまで惑わされる自分にイライラする。…らしくねぇ。



……誰かが来た。気配を感じる。意識を集中するとそれが誰かもわかった。





『……神田さん』


…アイツだ。



確かモヤシたちと一緒に食堂へ行ったはず。何故ここにいるんだ。


そう考え黙っていれば、アイツは俺のとなりに黙ったまま座った。アイツは目をやるとわずかに縮こまる。



「……何の用だ」

『あ…あの、…私がびっくりするの…無条件反射なんです。…だから、神田さんが恐いとか…怯えてるわけじゃなくて…、…その』

「……チッ、…何が言いたい」

『わ…私、神田さんが優しいって知ってます!!』

「……っ…!?」


勢いよく顔をあげるそれがあまりに近く、俺は立ち上がる。



『あ…だから、その……え?』不思議そうに俺を見上げるそいつは、徐々に頬を染めていった。


『あ……えと…』

言葉を探すそいつを視界に入らないよう、俺は黙って視線をずらす。



その沈黙が耐えられなくなったのか、立ち上がると誤魔化すように下手な笑顔を浮かべた。






『だから蕎麦……、…蕎麦好きになりますっ!!』









何を言ってるんだ、こいつは。


自分でもそう感じたのか、一層顔を赤らめると、逃げるように走っていった。





嵐が去ったように静かになる。



"わ…私、神田さんが優しいって知ってます!!"




……うぜぇ。



あいつがそう言っただけで、誰に何と思われようといいと思った自分がうぜぇ…。




…また惑わされた。


俺はこんなに精神の弱いやつだったか…




あいつが来てから舌打ちの回数が増えた気がするのは、気のせいじゃない。
























「ハル!」

『アレンさん、どうかしましたか?』


廊下を歩いているとようやく見つかったハル。駆け寄る僕を見て眉をハの字に垂らし、困ったように尋ねる。



「どうかしましたかじゃないですよ!どこに行ってたんですか?食堂に入って振り向いたら、もういないんですもん。心配しましたよっ」


そう早口にまくし立てれば、申し訳なさそうにしゅんとして、うつむきがちに謝るハルに、僕は慌てて弁解をする羽目になる。



『す…すみません。す、少し用事を思い出して…』

「べつに怒ってるわけじゃないんです。ただ、いきなりいなくなったから心配して…」

『…はい』


やはりハルの性格上、気にしないわけにはいかないようだ。徐々にうつむく彼女の頬に、僕はそっと手をそえる。



「だから顔をあげてください。僕は怒ってなんかいませんよ。」


にこっと笑ってみせると、安心したようにまだぎこちない笑みを浮かべてくれた。








 


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