01
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かつかつと音をたてながら廊下を歩く。角を曲がってやっとたどり着いた扉。それに手をかけて思い切り押した。
その瞬間、まばゆい光が目を刺激する。
久しぶりの外の空気。辺りは木々が生い茂っていた。
躊躇うことなくその中へと歩みを進めていく。土を踏む音だけが耳の内部を揺らす。
少し歩いただけで見つけた。あの凛とした後ろ姿を。
『……神田さん』
「………」
声をかけるも神田さんはピクリとも動かない。私に背を向けたままだ。
『………』
私も黙って神田さんの横に座る。すると漸くわずかだけど私をみてくれた。
私は恥ずかしくてうつむいたままだけど、鋭い視線を感じるからわかる。
「……何の用だ」
『あ…あの、…私がびっくりするの…無条件反射なんです。…だから、神田さんが恐いとか…怯えてるわけじゃなくて…、その…』
「……チッ、…何が言いたい」
『わ…私、神田さんが優しいって知ってますっ!』
「……っ…!?」
思いきって顔をあげると思っていたよりも、近い位置に神田さんの顔があって…。びっくりしたけど私が後退るより先に神田さんが立ち上がった。
『あ…だから、その……え?』
言葉を詰まらせる。何気なく立ち上がった神田さんを見上げたら、胸がぎゅうっとなった。
だっていつもどおりそっぽを向いてる神田さんの耳がほんのり赤かったから。感染してこっちまで熱くなってしまう。
ぺたりと座ったまま火照る頬に手を添える。こうゆうときはどうすればいいのか頭をはたらかせたけど、案なんて浮かぶわけない。
他人との関わりを極力避けてきた私にとって、未知の出来事だったから。こんなときの対処法、今まで読んできた科学書にものってない。
『あ……えと…』
やっぱり神田さんは何も言わずそっぽを向くだけ。この状況に耐えきれなくなった私は、あわてて立ち上がると笑って誤魔化した。
『だから蕎麦……、…蕎麦好きになりますっ!!』
自分でも意味がわからなかった。神田さんといったら蕎麦しか思い浮かばなくて、とりあえず口に出した。
案の定神田さんも眉を呆れ顔で私を見下ろす。
居たたまれなくなってへらっと笑うと、私はその場から立ち去った……というか逃げ出した。