01
「三蔵ッ…!三蔵ぉッ!!さんぞ…」
「動かしちゃ駄目です、悟空!!」
必死に三蔵を呼ぶ悟空だが、今の彼にその声は届かない。
『……る…ない…』
「…ハル?」
立ち尽くしたままの片割れに眉をひそめる。ただじっと横たわる三蔵を、少し離れた場所から見下ろしていた。
「ざまァ見やがれ…!!」
ゲラゲラとますます狂ったように笑う六道。
「妖怪ごときに加担しやがる奴は人間だろうと死んじまうがいい!!」
『………』
「ぶ…ッ!?」
突如頬に走る衝撃。視界に入ったのは瞳孔が開いたハル。
吹き飛ばされてやっと確認できた彼女は、背丈ほどの扇を片手に、静かな表情を向けていた。
『ゆ、さない…ッ、許さない!!』
「なんだ!?それは…ッ!」
『………』
六道の問いに答えることなく、ハルは地を蹴ると一瞬で手にしていた扇を消す。そしてめいいっぱい息を吸い込んだ。
「何を…ッ!?」
次の瞬間にはハルの口から強い炎が吐き出される。雨にもかかわらず、その炎は消えない。ゴオゴオと六道を燃やしていく。
「あぁああ…ッ!」
「「……ッ…!?」」
「ハル!!?」
慌ててリクが駆け寄るが、虚ろな瞳のまま反応をしない。ただぽつりと言葉を落とした。
『もう…大切な人、失いたく……ない、よ』
「ハル…」
優しく名前を呼ぶと光を取り戻した瞳。ハルは勢いよく三蔵に目をやるが、いまだびくともしない姿に唇を噛む。
『さんぞ…生きてる、よね?』
ハルが正気に戻ったためか、六道にまとわりついていた炎が一瞬で消え去る。
「ハァ…ッ……ハァッ…」
服は焼けてはいるが身体事態に致命傷はないようす。よく見れば彼の首から下げた数珠が淡く光っていた。彼を守るかのように。
『……死んだり、しない…よね?』
「……ッ…」
へらっと笑いながら言うハルの姿に耐えきれず、リクは黙って片割れを抱きしめる。触れれば彼女が震えていることが容易にわかった。
「……ハル…ッ」
「三蔵!聞こえましたか?貴方は何度ハルを泣かせるんですか!!」
三蔵の止血をしながら声をかける悟浄と八戒。しかし、三蔵を抱える悟空の呼吸が徐々に荒くなっていく。
「おい…悟空?」
「どうした、悟空!」
「悟空…!?」
『……ッ…!?』
悟空が纏う雰囲気が変わったことに敏感に反応するハル。リクの腕のなかから、不規則な呼吸を繰り返す悟空を見つめる。
次の瞬間
―――パキィイン……カランッ
音をたてて地面に落ちるのは悟空の妖力制御装置。うめき声をあげる悟空に悟浄が駆け寄ろうとするが、危険を感じた八戒とリクが引き留める。
髪は伸び、耳は尖り、爪も肉を容易に切り裂けるほど鋭い。悟空は本来の姿をさらけ出した。