01
「あーあ、ひと雨来るな。こりゃあ」
「宿か何かに着くまで間に合うかな」
鳴り響く雷鳴に怪しい雲色。今にも降りだしそうな空を見上げて、ぽつりと三蔵が言った。
「賭けるか?無理な方に千円」
「俺も」
「オレもっ」
「…賭けになってませんって」
『もう、ねむいかも…』
「な、もうちょい頑張れ!」
神獣を出せるのはハルだけのため、寝られては双子の移動手段がなくなってしまう。無理をすればジープに乗れないこともないが、密着をあまり好まないリクが必死に片割れを揺すっていた。
「……どうした、悟空?」
「いや…なんかさっきから、変なニオイがする」
くんくんと鼻をひくつかせる悟空に一行も、ニオイを嗅げば彼のいうニオイに気づく。
「そう言えば…」
「!?ちょっと…皆、あれを…!!」
―――キキィツ
「おい…何だよ、コレ……」
「……うわ」
ブレーキを踏む八戒の言葉に視線を向ければ、目の前には身体中に札を貼られた多くの妖怪が倒れていた。
―――ザァアアァ
「…やっぱりあと一歩間に合いませんでしたね」
何とか宿屋に着いた一行だが途中で雨にやられ、着いた頃にはびちゃびちゃだった。
「あ、光った光った」
『カミナリ?』
「近いな、こりゃ」
雷の音に窓から外に釘付けとなる悟空とハル。
「ほら、悟空。ちゃんと乾かさないと駄目ですよ」
「ハル、おまえも頭ちゃんと拭け」
八戒が悟空を呼び、リクも片割れを呼ぶ。八戒は悟空の髪をわしゃわしゃとタオルで拭き始めるが、リクはタオルを彼女の頭にかけるだけ。
『めんどくさーい』
案の定、ハルはタオルを頭に乗せたままベッドに腰を掛けた三蔵の隣に座った。
―――コンコン…ガチャ
「温かいお茶お持ちしましたー」
「あ、ども」
入ってきたのは宿屋の女性で手にした盆に人数分の湯飲みが乗せられている。
「災難でしたねェ。急に空荒れちゃって…。でもしばらく続くみたいですよ、雨」
「マジかよ…」
「……ちょっと」
今まで黙っていた三蔵がその女に声をかける。
「ここに来る途中、妖怪の死体と大量に出くわしたんだが…?」
「ああ、それはきっと六道様だわ」
「"六道"?」
「誰ソレ」
『…………』
揃って首をかしげるなか、ハルは蘇芳の瞳で三蔵を見上げた。
「お客さんたちは東からいらしたからご存知ないでしょうけど、最近この辺では"救世主"とまで呼ばれているお坊さんです」
『お坊さん…』
「………」
ぽつりと呟くハルに今度はリクが彼女を見やった。
宿屋の女の話によると"六道"は妖怪を退治する為、各地を転々としており姿を見た者は少ない。なんでも身体中に札を貼った大男で"六道"の呪符にかかればいかなる妖怪も滅するという、凄まじい力をもった法力僧だというのだ。
「札…、そう言えばさっき見た妖怪達の死体にも札が…」
三蔵は何かを考えるように黙り込む。その間に彼は行動に移そうとする。
「へえ、住み込みで働いてんだ。部屋どこ?教えてよ」
「えー?どうしようかなあ」
満更でも無さそうな女にさらに一言。
「外も雨だし俺達も濡れようぜ」
「おい、セクハラ河童」
「何だよッ、俺が何しようと関係ねェだろ!?」
ぎゃあぎゃあ言い争う二人を双子はじっと見つめていた。