「あら〜…咬まれちゃったのね〜」

「は…はい…」

買い物帰りに小さな虎を抱えた撥春に出会ったまではいいが、見事に手を咬まれてしまった透は、ただいま撥春に包帯を巻いてもらっていた。



「……杞紗、ちゃんと謝るんだ……杞紗っ」

「由希君…さっちゃんは話さないよ」

「え?」


不思議そうに紫呉を見上げる由希と透に続きを話すのは、タオルを頭にかけた撥春だった。



「…話せないんだ、中学入学してしばらくたった頃からぷっつり」

部屋の隅で縮こまる小さな虎を見詰める由希。


「とり兄が言うには心の原因だって…言葉を封じ込めちゃったんだって」

「……で、結局何があってそういう…事になったの?」

「………アレ。イジメ」




―――ガブ


その瞬間腕に咬みつく小さな虎をじっと鋭く見詰める撥春。



「……痛ぇよ…何…?怒ってんの?…"余計な事話すな"ってのか?……ふざけんなよ…おまえ……こっちはどれだけ心配したと思ってる。おまえの親も今頃そこら中捜し歩いてんぞ。」

だっと駆け出す虎に慌てる透の声と今までいなかったはずの彼女の声が重なる。


『今の話……ほんと?』

「俺は嘘つかない…なつめにはなおさら」

『……っ…』

杞紗を追うように駆け出すなつめに「私も」と行こうとした透を紫呉が止める。



「なつめちゃんに任せるといいよ。」

「しかし…」

「大丈夫」

心配そうになつめの背を見詰める透に穏やかに微笑む撥春。


「なつめは…誰だって救い出せるんだ……俺を救ってくれたように…杞紗も……」























『……さっちゃん?』


なつめの声にびくっと小さな体を揺らす虎。

『さっちゃん…とりあえずお家入ろ?それから……

「杞紗…?」

……おばさん…』


なつめの言葉を遮るように出来た影はそのまま彼女のとなりにしゃがみこむ。



「あなた何やってるの?周りに迷惑ばっかりかけて何してるの?何…考えてるの?お母さん困らせて…楽しい?」

目を虚ろに呟くように放たれる言葉になつめは顔を歪めた。


「なんでイジメにあってた事言わなかったの?どうして何も言わないの………もうつかれた…もう…イヤ……」






 



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