「なつめ〜?起きなさぁい」
『…ん……』
いつものように階段の下から聞こえる声に寝返りをうつなつめ。一向に起き上がる気配のない彼女に、再び大好きな母の声が聞こえた。
「なつめちゃ〜ん?大好きなフレンチトースト食べちゃうぞぉ」
『Σ……っ!?』
がばりと起き上がる彼女は可愛らしいパジャマを脱ぎ捨て、制服に着替えるとばたばたと階段を下りていった。
『食べちゃダメ!!』
勢いよくリビングを開くとそこには新聞を広げコーヒーに口をつける父と、くすくすと笑う母がいた。
「今からお父さんが食べてやろうとしたところだ」
『まだ残ってる!』
朝から豪快に笑う彼を見て、なつめはほっとしたように自らの椅子に座る。
「なつめはホントにこれが好きよねぇ」
『お母さんが作るから好きなんだよ?お父さんが作ったフレンチトースト真っ黒焦げなんだぁ!』
「まぁ」と微笑む母に満足そうに食べ始める。
「なつめはまだ料理出来ないだろう?お父さんのほうがなつめより上手だぞ〜?」
『そんなことないもん!あたしだってお料理ぐらい出来るよぉ』
ぶすっとはぶてるなつめはやっぱり可愛らしく、父は思いきり抱きついた。
もちろん物の怪憑きのなつめは、あっという間にライオンへと変身してしまうが、両親はやっぱり笑顔で我が子を見つめる。
これはなつめがまだ幸せだったときの話…。
―――ガチャ
ゆっくり開くドア
「なつめ?」
何も言わずに部屋へと向かう小さな背中がびくっと震える。
『……た…ただいま』
「おかえ…り……どうしたの!?」
驚く母に苦笑しながら振り返るなつめの姿はぼろぼろで…、あらゆる所に砂がつきランドセルは傷だらけ…膝小僧は血が滲んでいた。
「………どうしたの」
先ほどとは違う母の柔らかい声に、ぐっと涙をこらえながら下手な笑顔をみせる。
『えへへ…遊びすぎちゃって……いっぱい転んじゃって…ランドセルもそのときに……ごめん…なさい…』
言い終わると同時に抱きしめられるなつめはもう涙を我慢することは出来なかった。
『ぅ…っ、ほんとはね…っ…みんなに"髪の色がキモチワルイ"って……"瞳の色がオカシイ"って……追いかけられて…それで…っ』
真実を告げる少女の内容はあまりに虚しくて悲しくて悔しかった。母はぎゅっと我が子を抱きしめると小さく呟いた。
「ごめんね…なつめ」
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