「待てこらァー!!!」

『夾ちゃんって案外遅いんだねー』

「なつめが普通より速いんだよι」


今日は持久走大会



勝負のため(?)風邪気味の由希と一緒に走る許可をもらったなつめはけっこうなペースで先頭を走っていた。


『ゆんちゃん、まだ平気?』

時々心配そうに声をかけてくれるなつめに由希の頬は自然と緩む。

「大丈夫だよ」



安心させるようににこっと笑って見せると『無理しないでね』と笑いかける。
その笑顔が今は自分だけのものだと浸っていると。





「よっしゃー!!…ぶっ」



―――ドタドタドタ…バタンッ!!





ちょうど走り抜いて行った夾がなつめと由希の前方で激しく転けた。どうやら紐に引っ掛かって転けたようだ。


『透君…?』

何故かその場にいた透が倒れた夾に声をかけるが夾は全然平気そうでガバッと顔をあげると紐を仕掛けた相手へと怒鳴り散らす。



「こうしないと足止めてくんないだろ。」

そこには白髪の男――撥春がしゃがみこんで3人を見ていた。


『…ハル?』

「ホントに帰って来てたんだね…なつめ」

撥春は無表情のまま立ち上がるとそのままなつめに正面から抱き着いた。



「春!」

「てめっ!!」

「わぁ…///」

突然の彼の行動に由希と夾は怒りの、透は驚きの声をあげる。


『と…とりあえず場所変えよっか…』













なつめの提案で場所を移動することにした5人は橋の下に来た。


「で?おまえ何しに来たわけ?」



夾の呆れたような聞き方の問いに「ファイトしに。」と簡潔に答える撥春。夾と撥春の会話によると撥春は3日かけてここまで来たらしい…もちろん彼の住む本家からここまでそんなに遠くはない。

彼がただ方向音痴なだけだ。



断り続ける夾を見ていた由希となつめはそろそろやばいかも…と呟く。


『夾ちゃん、そろそろ……』

「だめだったらだめだ!とっとと帰れ…」



―――ガンッ







「…ガタガタガタガタ言ってんじゃねぇよ…っ」


様子の変わった撥春に唖然とする透と頭を抱える由希。

「男だったらどんな勝負もかかってこいよ!…子猫ちゃん…っ」




――…ブラック降臨!



「…まんまとブラック春を呼び覚ましたね。」

「ぶ…ぶぶ……ι」


撥春の豹変っぷりに言葉を詰まらせる透に、なつめがけろりと普通に答える。



『一回キレると手に負えないんだぁ…。身内じゃそれを"ブラック春"って呼ぶの!』

「は…はぁ…」


……うまく理解できない透だった。







 


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