「止めるかと思ったよ。」
透が出ていった後、紫呉が煙草片手に呟く。
「…どうして?初めから改築が終わるまでって話だったじゃないか。」
「あいつが…他人がこの家にいた事の方が変だろ。」
淡々と告げる由希と夾に空気の重さを感じざるを得ない紫呉はなつめがいるであろう上を見上げる。
「なつめちゃん…寂しそうだったね〜」
「「Σ……っ…」」
あからさまに反応を示す二人を見てくすっと微笑む紫呉。
"透君ともっと仲良くなりたいなぁ"
"……そうだと、嬉しいなぁ"
「………っ…」
「……ちっ」
二人はばたばたと透が置いていった住所が書いてある紙を手にすると二人揃って彼女がいるであろう2階へ声をあげる。
「「なつめ!降りておいでよ(来い)、迎えにいこう(行くぞ)!!」」
「…いたかった…草摩君と夾君と紫呉さんが……なつめさんがいる家に…いたかったです……」
「……そうだね…帰っておいでよ。」
「そ!?」
突然の来訪者に驚く透とその親戚一同。長男は透に向かって微笑む由希を見て「美人…」と呟いた。
「行くぞ!」
『帰ろっ!透君』
透の頭を無理やり掴む夾と腕を引っ張るなつめ。
「夾君!………なつめさん!!」
ずるずると引きずって外へ連れ出す二人、否なつめを見てまたもや長男は「可愛い…///」と呟いた。それを聞き逃すはずのない由希が迷わず彼の額を指で弾く。
「調子に乗るなよ…ゲス」
「あ、あの…夾君、なつめさん…どして…あそこに」
「てめぇが自分で住所を置いてったんだろうが!」
『分かりにくくて夾ちゃんとゆんちゃんったら道端でけんかし始めちゃうんだよ!』
けらけら笑い出すなつめをみて透は目を丸くする。
「おまえがいなくなった途端…こいつが調子悪くなるんだ!おまえがいねぇと狂うんだ。」
夾の言葉に透はなつめに視線を向ける。今にも泣き出しそうに唇を噛みしめる彼女を見て透までも視界が歪むのが分かる。
『出ていきたくないなら…言ってよ。』
「どうしてそれを!?////」
「聞こえてんだよ…思いっきり!」
恥ずかしそうにうつむく透に構わずなつめは話続ける。
『わがまま…言ってもいいじゃん……!あたしは言うよ…透君と一緒にいたい……』
溢れる涙を我慢して告げるなつめの頭をくしゃっと撫でる夾は彼女を見て優しい表情で微笑んだ。
「毎日毎日言われると頭くるけどな…でもおまえの場合――…たまには弱音吐いたってわがまま言ったっていいんだよ……めげたっていいんだよ。」
夾が透に視線を移すとポロポロと涙を溢す彼女が視界に入る。
「なぜに泣く!?」
慌てる夾と必死に涙を堪えるなつめの耳に小さな声が聞こえる。
「帰り…たい…です……」
『……っ…』
「皆のいるお家に帰りたいです……っ」
思わず透に抱きつくなつめに呆れながらも優しく見守る夾と透の荷物を手にして微笑む由希。
「さっさと帰るぞ!」
『……っ…うん!!』
「はいっ!」
夾、なつめ、透、由希の順で並んで手を繋いで歩く4人の影が夕日に照らされて長くのびていた。
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