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「ずっと隼人さんが好きだったんだ」
鈴はしばらくたって、隼人と家へ戻ってきた。
戻ってきた鈴は隼人に手を握られていて、今も二人でリビングのソファーに座っていた。
どうやら、上手く隼人は鈴を捕まえられたらしい。
自分が二人を裂くきっかけを作ったのに、仲良く帰ってきた二人を見て里桜はほっとした。
鈴と隼人をソファーに座らせ自身はソファーの前に立ったまま、里桜は口を開いた。このさい、洗いざらい喋ってしまえ…と疾風から助言を貰ったので、鈴と隼人に対し包み隠さずいままでの恋心を喋るつもりだった。
「鈴は何でも持っていて、みんなから大事にされて。
でも俺は…お兄ちゃんだから、ずっと我慢して」
我慢して。
いや、違う。我慢したふりをして、諦めていただけだ。
何も言わず傷つかないふりをしていただけ。
素直に隼人を慕う鈴に叶わないと、必死に隠していただけの臆病者だった。
苦し気な顔で告白する里桜に、鈴は俯いた。
きっと、鈴が隼人に抱かれ混乱した里桜同様、鈴も混乱しているんだろう。
ずっと頼れる兄が、まさか自分と同じ思い人・隼人を想っていたなんて思いもしていないだろうから。
鈴は優しい子だから。
「僕も……兄ちゃんの気持ちなんてわからなくて…ごめ…」
「鈴」
隼人が鈴の背を撫でる。
優しげな鈴に対する眼差し。
まだ、少し胸は痛むけれど。
もう、大丈夫。きっと、大丈夫。
さっき、泣くだけ、泣いたから。
隣には、疾風もいてくれるから。
里桜は瞳を反らさずになかむつまじい二人を見つづけた。
「ごめん…兄ちゃん…、こんなこと告白させて…」
「謝らないでいいよ…。
俺も…ごめん…。隼人さんに告白とキスなんかして…。
鈴は俺の弟だから、大事にしなきゃって。
でも悔しくもあって、どうしていいのか解らなくて。混乱してた…。
でも、もういまは平気だ…
隼人さんと付き合えて、良かったな…鈴」
里桜がつげると、鈴の瞳からぶわっと涙が零れる。泣き虫だなぁ…とハンカチを差し出せば、「兄ちゃんが悪い」とむくれた。
「僕も兄ちゃんが大事、兄ちゃんはひとりじゃないよ?
傍に守ってくれる人居るよ?
ちゃんと見てあげてよ。
たとえば、ほら、隣に…」
「隣…?」
里桜は首を傾げ、隣に居る疾風を見た。
疾風は、「こら、馬鹿鈴、」と何やら真っ赤になっている。
(先生が、傍に…?)
里桜がきょとんと疾風を見つめていると、疾風は顔を赤らめたまま、里桜を抱き締める。
「せんせい…?」
「里桜、あのな…、俺の家で言っていたお前に言わなきゃいけない事、まだあってな…。その…、」
「言わなきゃいけない事?」
「だから、その、お前を今まで抱いていたのは…、その、お前が…
「あの〜〜〜」
いい雰囲気をぶち壊すかのようにかけられた声。
4人はいっせいに声のする方へ眼を向ける。
「高橋…なんだ、お前いたのか…」
声の主は鈴の友達であり、鈴に想いをよせる高橋剛だった。
「ひでぇよ先生! いたのかって…いたよ!なんだよ、鈴とその眼鏡が恋人同士って。しかも朝帰りって!
云っとくけど、未成年者に手ぇ出したんだからな?」
云われて、里桜と鈴が紅くなる。
鈴のように里桜はちゃんと疾風には抱かれていない。
しかし、数々おこなってきた悪戯。
あも、立派な淫行≠セろう。
「黙ってたら解らねえよ」
「わ、ひでぇ極悪人。…俺帰るわ、さいなら…」
「剛」
「わりいな鈴。今話せねえや」
剛もきっと、色々気持ちの整理をしたいのだろう。
剛の鈴への気持ちを知っている里桜は、失恋仲間として、寂しげに去っていく剛の哀愁溢れた背中に頑張ろうな…お互い、と心の中でエールを送った。
剛が家から出ていくと、隼人と鈴も続くようにリビングからでていった。
付き合ったばかりだからか、もうすこし二人の甘い時間を楽しみたい…となにも言わずとも目が語っていた。
リビングに残されたのは、疾風と里桜のみ…。
「…そ、それでな…、里桜、あの…俺…」
「先生、その、鈴の言っていた事、気にしなくていいから…」
「は…?」
鈴の言っていた、事?
はて…と疾風は首をかしげる。
「傍に守ってくれる人居るよ? ってやつ。ほんと、鈴ってば鈍感だよね。俺の気持ちずっと気づかないし、さ」
「え…、は…?」
「先生も、鈴に失恋したのに…、ね。失恋相手にあんなこと言われて、さ。ごめんね、先生」
ヘラリ、と笑う里桜。
「はー?」
疾風は、ここまで他人を想ったことがない。
里桜の為ならばいっしょにいてやるし、優しい言葉もかけてやる。気持ちが通じてないのに悪戯をしてしまったのも里桜だからだ。
里桜だから、だ。
それが、なんだ…。
鈴が鈍感?
(鈍感はどっちだ…!)
鈴に負け時劣らず、鈍感で…とんちんかんな勘違いしている里桜をそのまま押し倒したくなる。
「里桜、俺がいいたいのは、だな…」
「あ…やば…、今日光と午後に会うんだった。ごめん、先生」
疾風の言葉を遮って、里桜はリビングから飛び出す。
「ちょっと待て、里桜、」
慌てて追おうとするも、鈴が放置していた洗濯物に足を取られ思いっきり転ぶ疾風。
なんて典型的ギャグ…をやっている間に里桜の姿は見えなくなった。
『や…っ隼人さん…まだ先生がいるのにぃ…こんなところで…』
『ふふふ、聞かせてやればいいじゃないか。可愛い鈴、ほら、ここがこんなにぐちゅぐちゅなの、兄貴に見せちゃおうか』
『いやぁ…』
聞こえてきた、弟と、鈴のいやんあはんな声。
(俺はいつになったら、里桜とラブラブになれるんだ…!)
羞恥もなく、あられもない言葉を連発する二人の情事に疾風はがっくりと肩を落とした。
鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(里桜編)
一部 完。
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