鬼畜狼と蜂蜜ハニー里桜編 | ナノ


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「里桜、すいません。待ちましたか・・・?」
「ううん、大丈夫」

約束の時間より数分遅れて、柊がやってきた。
いつも時間に正確な柊にしては、珍しいことだ。
柊の顔にはクマが出ており、少し目が荒みやつれて見える。
いつも淡々と涼しい顔をして物事を進める柊だが、今はその顔には隠せない疲れが見えていた。


「・・・忙しいのか」
「えぇ・・・、ちょっと・・・」
「・・・無理するなよ・・・」
「はい・・・。里桜、君何か変わったことない?」

里桜の前に腰掛けながら慎重に、小声で柊は尋ねる。
周囲を気にしながら。

「変わったこと?」
「ええ・・・」
「ないけど・・・、」

里桜の返事に柊は、そうですか・・・と、安堵し視線をコップへ落とした。

「なにかあるのか?」

突然の質問に、里桜が疑問を感じそう問うと柊は言いづらそうに口を開いた。

「…父が、殺されかけました…」
「・・・え・・・、」
「今、入院しています。幸い急所は外したようなので…一命は取り留めたようですが。
父はうわ言のように天音の家のものにやられたって言っていました」
「天音の…?」

天音≠フ名前を聞いて、里桜の顔が歪む。
直人の名前を騙り、里桜に電報を打った人物…。

結局真意はわからなかったが、あんなことをできたのは一人
天音陸≠ニ名乗る男だけだ。
一体、天音直人の名を使って、なにを彼はしたかったのだろうか…。


「色々父との話し合いがありまして…、合宿の途中で抜けてしまって…すみません。
時間がとれるようになってすぐ、里桜に連絡してみたんです…。里桜は天音家についてはなにか知っていたりしますか…」

柊から昔、里桜は問われたことがある。
財閥の天音家≠知らないかと。

でも、里桜は天音の人間は祖母くらいしか知らなかったし知ろうとも思わなかった。
直人も直人で天音の家≠フ人間に虐げられた…と残してたフロッピーに記されていたし、あまり付き合っていきたいと思う人間じゃない。

「ごめん、俺わかんない・・・。父さんの実家のこと、全然知らないんだ…」
「そっか・・・。」
「ごめん。役に立てなくて」
「いや、僕こそ、急にごめん・・・。里桜は前から知らないって言っていたのに」
「いや・・・、」

柊が天音≠ニいうことばを言うたびに、脳裏で天音陸が過ぎる。
里桜と同じ性を持つ、不思議な少年。


 それから柊がいなくなってからの合宿での話し合いのことや秋の文化祭のことについて話し合い、またなにかあれば連絡すると約束して二人は別れた。

(天音家…か…、)
駅へ向かう道すがら、ぼんやりと考えに馳せる。
偶然合宿場で出会った天音陸。いや、偶然ではないのかもしれない。陸は行っていたではないか。鈴が好きだ、と。
自分たちの事についても知っているようだった。

(俺は何も知らないのに…あの天音陸ってやつはどれだけ俺たちを知っているんだろう)
鈴と人気俳優上条が親子なこと。鈴と隼人が付き合っている事。

そのあたりも彼は知ってしまっているのだろうか。

(ストーカー…?まさか…ね…)
ないない…、と無理やり結論付けて、頭を左右に振る。
っと…。

「…なにを馬鹿な真似しているの…」

呆れたような声が里桜にかかった。すぐに声のした方を振り返ると…、水色の大きなハットの帽子を被ったサングラスをかけた女性がいた。


「…鈴音さん…?」
「奇遇ね…こんなところで会うなんて…。」
「お、お久しぶりです…」

最近鈴関係で鈴音の話題はちらほら出ていたが、実際の鈴音にあうのは久しぶりだった。

 鈴音はシンプルな白いワンピースを着ており、足元は高いパンプスを履いていた。
スラリ、としたその体系は…母と同じ年なのだろうか…と思うくらいスタイルがいい。
高校生の子供がいる母親には到底見られなかった。


「驚いていないのね…。私がここに…日本に帰ってきたことに…」
「週刊誌で…、貴方と上条があっているのを見ていたし…、上条が俺の家に来ました」
「…そう…。貴方の家まで行ったの…。馬鹿な男…」

皮肉交じりにぽつりと呟かれる。

「あの…?」

自分は何故呼び止められたのだろうか。
里桜と鈴音は甥と叔母の関係だが、ほとんど面識がない。

そもそも、鈴音は鈴が小さい頃からずっと海外に行っていたのだから。

「俺になにか…?挨拶だけ…ですか…?」
「不愛想な子ね。私が甥っ子に話掛けてはいけないの…?」
「いえ…べつに…」
「でも…話があるのは事実よ。鈴と、上条の事」

鈴と上条のこと。
紡がれた言葉に、瞬きも忘れ鈴音を凝視する。

「鈴の…?」
「ええ、聞きたい?」

うっすらと唇に緩やかな曲線を描いて鈴音は微笑む。
里桜が無言でこくりと頷くと、鈴音はついていらっしゃい…と静かに行ってすたすたと歩きだす。
どこにいくのだろうか。
おいて行かれぬよう、里桜は小走りに鈴音の後を追った。



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