平凡×平凡
「聞いてくれよ田辺ー」
「はいはい、なんすか?…あっ、惚れた話だったら聞かねぇからな」
「ひっどぉ!!!!」
「……また惚れた話なのかよ」
「…はい、その通りです」


俺は中学、高校と輝ける青春時代の6年間を、男しか居ない、ただただむさ苦しいだけの場所で暮らした。
最初こそは男だけしか居ない環境にラクだと感じていたが、さすがに高校に入る頃には全く女の子との関わりのない環境に、何度も枕を濡らした。
そして毎日のようにクラスメイトとは『彼女が欲しい』『仕方ない。仕方ないんだよ…』『大学に入れば女はたくさんいる。それまでの辛抱だ…』『そうだよな。うん。』と互いに互いを慰め合い、女の子達が間近にいる花の大学生ライフを夢見ていた。

だがいざ大学生になり、女の子達と同じ環境に居れるようになると、男達と話す時とは違い常に緊張し、目線も何処を向ければ失礼じゃないかと考え、結局あらぬ方向へと目線を向け、女の子と目も合わせることができない。
そのくせ、6年間も男しか居ない環境で暮らしていたせいで、どの女の子も可愛く思えてしまうという男子高出身マジックにかかってしまい、周りから呆れられるほど惚れっぽい人間になってしまった。
そして悲しいことに、どの恋もほとんど一過性のもので、長続きしたことがない。
そのせいで惚れては冷め、惚れては冷めの繰り返しで、大学生になって数年も経つというのに、未だに年齢イコール恋人いない歴を貫いてしまっている。

「高校時代のダチは次々に恋人出来てんのに俺だけ置いてけぼりだよ…。俺も恋人欲しいよ、田辺!!!!」
「静かにしろよ酔っ払い。周りの迷惑だろうが」
「まだ酔ってねぇよ。…あっ、店員さん!焼酎ロックで」
「…あんだけ飲んでて酔ってないとか、マジでザルすぎだろ」
「なかなか酔わない家系なんですー。」
こうやって大学入学時から常連として通っている店で田辺に愚痴を聞いてもらうのも何十回目か…





「人数足らないからって合コン誘われたんだけど、お前行く?」
「行く!行く!行きたいです!」
そんな会話が行われた昨日。その瞬間は田辺がまるで神様のように思え崇めたが、実際行ってみるとそれは合コンとは名ばかりのキューピッド作戦だった。

「えーっと、…なんで?」
「平戸さんと橋下な、お互い両想いらしい。なのに全然進展しないから、周りがキューピッドになってくっつけてやるんだってさ。ちなみに女の子は全員既に恋人持ち」
「……」
「一応合コンって名目だから人数は確保したかったんだってよ。本当はめんどうだし断りたかったけど、断れなかったからお前も道連れにしたってわけ」
呆れてものも言えない。せっかく今日のために張り切ってオシャレして来たっていうのに…
騙した田辺にも多少イラっとはするが、それよりもなんで橋下の為にキューピッドなんてやってやんなきゃいけねぇんだよ…
むしろ俺が誰かにキューピッドしてほしいよ。

「帰りたい…。」
「食べ物飲み物は割り勘だからせっかくだし飲んでけよ」
「……」
チラッと田辺を見た後、はぁとため息をつき、勢いよく手元にあった生ビールをグビッと飲みきった。
唯一救いなのは、合コンの場所が行きつけの店で、相変わらず酒がクソ美味いということだけだよ…




平戸さんと橋下がコソッと二人で出て行くのをニヤニヤした顔で見る周りに、思わず暴言を吐きたくなる気持ちを抑え、酒をあおる。

「田辺ぇー、俺さぁ実は平戸さんも好きだった時期あんだわ。今は好きじゃないけど、なんか複雑な気分」
「お前が惚れる女の幅広すぎて、逆に尊敬するわ。」
「ぶっちゃけ多少可愛くなくても女だったら誰でもいいと思ってる…」
「うわっ…、サイテェー…」
うっせぇばか。そんだけハードル下げても恋人できねぇんだから仕方ねぇだろと反抗しようとしたがダルくてやめた。

「……もうさ、主役の二人帰ったし、俺も帰っていいよな?」
「いいんじゃね?…にしても、せっかくだから飲めとは言ったが、これは飲み過ぎだろ…。一人で帰れるか?」
「余裕」
適当に田辺に金を渡し、店を出た瞬間気が緩んだのか、急に涙が出てきた。

さっき田辺に言ったことは嘘。
本当は好きだったんじゃなくて、今も俺は平戸さんのことが好きだ。
あまり派手な見た目じゃないが誰にでも優しく、女の子に対して挙動不審な俺にも周りと同じく接してくれていた平戸さん。
そんな平戸さんに、いつもは見た目だけで惚れる俺が、初めて見た目じゃなく中身を知って好きになった。
だから今度こそはと思っていたのに…

ちゃんとした失恋はこれが初めてかもしれない…
邪魔にならない所にしゃがみ込み、唇を噛み締めながら静かに涙をこぼした。



「お兄さん。ここで何してんの?」
突然声をかけられ、少しだけ顔を上げると、そこには至って平凡な普通の男子高校生が立っていた。

「お兄さんお酒強いのに酔っ払っちゃった?大丈夫?」
俺を心配してくれてるらしく、不思議そうな顔をして目の前にしゃがみ、俺と目線を合わせてきた。

「いや…その、違くて……失恋のショックで…」
「……惚れっぽくて、熱しやすく冷めやすいのに失恋しちゃったんだ…それでお兄さん泣いてたの?」
男子高校生の手が徐々に俺の顔に近付き、親指で目元に溜まっていた涙を拭られた。

ボーッと男子高校生の一連の動作を見ているとガッチリと目が合った。
「ねぇ、お兄さん。俺、男だけどどお?お兄さんの恋人になれないかな?」
「はい?」
「ずっと前から、お兄さんのことが好きだったんだ。」
「ちょ、ちょっと待て…ってかさっきからなんで俺のこと色々…」
「あれ?気付いてなかった?」
男子高校生は驚いた顔をした後ニコリと笑い、さっきまでいた店を指差した。

「俺、この店の店員です。いつもご贔屓にありがとうございます」


『よくお兄さんが通ってくれてるから、お兄さんの好きなお酒とか完璧に覚えてるよ』と笑う男子高校生に目を丸くしながらも、初めて告白されたなと思考を遠くへ飛ばす。

「なぁー少年…」
「なんですか?お兄さん」
「お前、俺のこと好きって言ったよな?」
「言いましたね」
「…うんまぁ、男だけど良し!俺の恋人にしてやる」
「っ!!……お兄さんもしかして酔ってる?そんなこと言って、俺本気にしちゃうよ?」
「お前、俺がザルだって知ってんだろ?酔ってねぇよ。あと本気にしていいから」
他人に好かれるのは正直悪い気はしない。
相手は男だけど、6年間の男子校生活で男同士にもそれほど抵抗はない。
出来るなら女の子の方が嬉しかったというのは本心だけど、好きと言ってくれてるのに男も女も関係ない。

「とりあえず、失恋のショックで辛い俺を慰めてくれよ少年」
両手を広げて少年を見ると、苦笑いしながらも近付き、『お兄さんのそういうところ、俺すごく好き』と言い抱きしめてくれた。
さっきまで悲しかった気持ちも少年の温かい腕のおかげで吹き飛び、すべてがどうでもよくなった。







解説
主人公21歳。少年18歳。

青春時代を男子高校で過ごしていたせいで、女の子に対して挙動不審な大学生。
そんな大学生くんがようやくちゃんと好きになった人にはすでに両想いの好きな人がいた。何もする前に失恋が決定し、そのショックで悲しむ大学生を救ってくれたのは常連の店の店員くんだった。要約するとこんな話です。

最初高校生くんは、常連客である大学生くんを『惚れっぽいのに熱しやすく冷めやすい、残念な人だなぁ』ぐらいにしか思っていなかった。
だけどどんどん大学生くんのことが気になりだし最終的には『そんなに恋人が欲しいなら俺がなってあげるのになぁ…立候補してもいいかな?』と思っていた。


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