ショタ×三十路
生まれた時から僕には、前世の記憶というものがあった。
前世の僕は何処かの国のお姫様らしく、日がな一日お茶ばかり飲んでいた。
毎日が同じ事の繰り返しで、正直『なんで自分はこんなつまらない立場に生まれてしまったんだろう』と思ったこともあった。
だけど16歳の誕生日、僕の日常は大きく変わった。

大国との友好関係を築くために、僕は大国へと嫁に出された。
生まれた時から自分は大国とのかけ橋のために厳しく勉学やマナーについて躾けられていたので、やっとその事が実を結ぶのだと嬉しくて仕方がなかった。
最初から自分の否応なしで知りもしない相手と結婚することは決まっていたので、死にかけの爺さんでも、生まれたばかりの赤ん坊でも
自分の国のためなら誰とでも結婚するつもりでいた。

だけど大国の王様は、僕の思い描いていたような人ではなかった。

『あなたみたいな可愛らしい方を妻にできるなんて、俺はとても幸せ者です』
ニコリと笑い、この世界の3分の2の領土を占める程の王が、僕の前に跪き、手の甲にキスを落とした。
てっきり唯我独尊の俺様野郎かと思っていた分、驚きは大きく、少しの間僕は放心してしまった。

王…カルロとの儀を挙げてから一緒に住みだしたが、今までのつまらない生活が嘘のように、毎日が忙しく楽しいものとなった。
城下町へお忍びで行ったり、狩猟について行ったり、仕事を手伝わせてもらったり…昔じゃ出来なかったことでもカルロに言えば『俺と一緒ならいいよ』となんでもやらせてくれた。


カルロは僕の事をたまに『姫』と呼んだ。
なぜそう呼ぶのかと気になり聞くと『自分は王より、姫を守る騎士になりたかった』などと言う。
王であるカルロのそんな発言に思わず僕は笑ってしまった。

『主に忠誠を誓い、主を守るためなら命も惜しまないなんて素敵じゃないか』
とぶすくれた顔をするカルロは王の威厳なんてなく、自分より何個も上なのに可愛く思え、思わず頭を撫でた。
それに機嫌を直したのか、カルロは穏やかに笑った。
『姫…好きです。俺が命に代えてでも、姫を守りますから…』

だがしかしそんなカルロの発言は、現実にはならなかった。

僕の最期は、敵国のスパイに刺されそうになったカルロを庇い、自分が刺されて死んだ。
薄れゆく意識の中、僕の手を握り『ダメだ死ぬな。お前が居なくなったら俺は……』と呟くカルロに、僕は何も言ってあげることが出来ないまま息を引き取った。





物心ついた頃にはすでに今のように前世の記憶があったため、普通の子どもよりかは自分は幾分か大人びていた。
だけどカルロが居ないことや、自分が前世とは違い、男になっていたことに戸惑いやギャップを感じ、情緒不安定だったこともあった。
でもそれも最初だけで、数年もすれば『そんなもんだろ』と全てを受け入れ、割り切れた。

受け入れてからは『自分は他人と違って前世の記憶があるが、ただそれだけだ』と気持ちがだいぶ楽になった。
そして僕はごくごく普通に小学校へと通い、中学、高校、大学と順調に年を重ねていった。







「翔太郎さん!う、産まれたって!!!」
「あぁ、さっき産まれたよ。元気な男の子だったよ」
ニコニコと嬉しそうに笑う翔太郎さんに、僕はホッとため息をついた。

翔太郎さんと小百合さんは僕の家の隣に住んでいるご夫婦で、出張で中々家に居ない僕の両親に代わって、二人にはいつもよくしてもらっている。
そんな二人の子どもが出来たと聞いた時は、自分のことじゃないのに僕は泣いて喜んだ。


「小百合さんは?」
「今は出産の疲れで寝てるよ…ねぇ、陸くん。俺と小百合の子ども、見てみない?」
「っ!!見たいです!!!」
すっかり父親な顔をしている翔太郎さんに連れてかれたのは新生児室だった。
ガラス越しにたくさんの産まれたての赤ん坊がいる中、翔太郎さんは迷わず『あの子だよ』と一番端にいた赤ん坊を指差した。

「あの子が!」
赤ん坊がよく見える場所へと移動し、赤ん坊を見た瞬間、最近はなかった前世の走馬灯が一気に頭へと流れ込んできた。
気付いた時には自然と涙が溢れ、僕は無意識に『カルロ』と呟いていた。





「陸さん!おかえりなさい」
「ただいま。海里も今帰り?」
「うん。友達とサッカーしてた」
「そっか。…海里はいつも元気だな。海里見てると自分が年寄りに感じるよ」
よしよしと頭を撫でてやると、嬉しそうに海里は笑った。
そして、もっととねだるように自分から僕の手に頭を擦りつけてくる姿に昔を思い出し、胸がツキンと痛んだ。

初めて海里を見た日、まだ産まれて間も無い皺くちゃなちっちゃい姿なのに、僕は一瞬にして海里がカルロの生まれ変わりだとわかった。
また会えたという嬉しさに何度も何度も僕は涙を流し、翔太郎さんと小百合さんにお礼を言った。
二人はキョトンとした顔をしていたが、そんなこと気にせず『ありがとう』と僕は言い続けた。

海里が成長するのを見守っていて気付いたが、海里には前世の記憶がなかった。
悲しくないと言ったら嘘になるが、また現世で会えただけでも奇跡で、それだけで僕は嬉しくてたまらなかった。
そのせいか、僕は海里をとても可愛がり、必然的に海里は僕に懐いてくれた。



「今日陸さんの家行きたい。ねぇ、いい?」
「いいよ。海里が来てくれると僕も嬉しいから」
昔からの癖で、僕達は手を繋ぎながら一緒に歩く。
30歳の僕と10歳の海里とでは周りには親子にしか見えないが、僕の気持ちは前世の頃から変わらない。
海里の温もりを感じ、いつか離れてしまうだろう海里を寂しく思いながらも、僕は海里の手を強く握った。


「陸さん!!!!!」
「えっ?…ぁ」
突然繋がれていた手を離され、海里に背中を押された。
イッタァと思い後ろを振り返ると、壁にぶつかっている車と、その近くで倒れている海里がいた。

「っ!海里!!海里!…誰か、すぐに救急車呼んでください」
海里に近寄り、あまり動かさないようにして海里の様子を伺う。
呼んでも開かれない目に、僕はどうすればいいのかわからずただただ涙が次から次へと溢れてくる。

「海里…お前が死んだら僕は…」


「…俺は死なないよ姫」
「!!!海里」
「姫、ご無事でしたか?」
目を開け、よっこいしょと起き上がる海里を僕は優しく抱きしめる。

「僕は大丈夫だよ。それより海里は…?」
「大丈夫だから、…そんなに泣かないで」
「よかった…よかった…」
海里の無事に安堵し、大人気なく海里の首に顔を埋めて泣いてると
ふと、先ほどから海里が僕の事を『姫』と呼んでいる事に気付き、バッと海里から身体を離した。

「海里…、もしかして記憶…?」
「うん、全部思い出したよ姫。…今度は、姫を守れてよかった」
昔を思い出し、悲しそうな顔をする海里は子どもっぽさなどなく、その顔は僕が死んだ直前のカルロそのものだった。





あの日をキッカケに僕達の日常は変わった。
「ひーめ」
「海里?流石にそれは…」
座っている僕に海里は目を瞑って近付いてきた。

「海里…僕って周りから見たらショタコンだってことわかってる?」
「…ごめんな、陸。俺がもう少し早く産まれてればな…」
記憶が蘇ってからは、年の差なんて気にせず海里は前以上に僕に好意を寄せてきた。
嬉しいような、翔太郎さんや小百合さんに悪いようなで毎日が複雑で仕方ない。






解説
転成もの書きたいなと思った結果がこれです。

カルロは王様じゃなくてずっとただ1人の主を守る騎士になりたかった。
だから陸(前世)を伴侶としても主としても愛していた。
陸(前世)が死んでからは、陸(前世)の復讐をした後、世界を統一し、死んだように仕事をした。
全てが落ち着いた頃に過労や病でこの世を去った。
記憶が戻ってから前世の事もあり、海里は心配性に…

この先、年齢的に陸の方が先に死んでしまう事を、海里は必死に考えないようにしている。


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