平凡×年下美形
「佐野ー…、あそこにいる白城ってやつお前知ってる?」
煙草吸わない俺を無理矢理喫煙ルームへと連れて行き、先輩は煙草を吸いながらスモークガラス越しにある人物を指差した。

「先輩の同期で総務課の白城さんですよね?それぐらい知ってますよ」
「なら話は早い。あいつのこと落としてこい」
「はっ?!何言ってんすか先輩」
煙草を咥えながらいかにも悪巧みしていますという顔をする先輩に反論したが、後輩の俺の言葉を全く聞き入れてくれず
「期間は無制限。方法はなんでもいい。もし白城の事落とせたら1週間昼飯奢ってやるから、その無駄に良すぎる顔を使って全力で落としてこい」
以上。仕事に戻ってもよし。
と言い、先輩は喫煙ルームから俺を追い出した。

先輩に何の意図があるのかわからないが、下っ端雑用は上に抗えるはずもなく、1週間の昼飯をご褒美にせいぜい頑張るしかないかと腹を決めた。




『真面目』『地味』『大人しい』
それが手始めに白城さんがどんな人だか知るために周りの人から聞いた白城さんの印象だった。
良い人だと思うけど平凡でつまらない と何故かみんな口を揃えてそう言った。

とりあえず悪い人ではないと知れただけでも収穫。
それにみんなの話を聞いて白城さんへのアピールの仕方も決まった。




「総務課の白城さんですよね?俺、営業課の佐野です。」
「えっ?はぁ…」
「突然ですが一緒にランチしませんか?」
「な、なんで?…」
「白城さんと食べたいんです」
俺はニコニコ顔を崩さず、白城さんに迫る。
自慢じゃないが俺がお願いして断られたことはない。
今回も案の定不思議そうな顔をしながらも白城さんにOKをもらえた。
『じゃあ行きましょうか』と席に座っていた白城さんを立たせ手を引いた。
思ったよりデカイ白城さんの身長に驚きつつも『俺のオススメのお店があるんでそこへ行きましょう』と白城さんの有無も聞かずに俺は無理矢理足を進めた。

アピール方法は実に簡単だ。
ただ白城さんに自分の話や相談をするだけ。
自分を曝け出し相手に自分を知ってもらうことで同情をもらい、そして最後に『こんな話を出来るのなんて白城さんだけです。話聞いてもらってありがとうございます。』と下手に出る。
恋に落ちるうんぬんは置いといて、自分を頼りにされて嫌な気はしないはず。


…なのに何故。
作戦は成功している。
『彼女に束縛されすぎて刺されかけた』『見も知らない相手にストーカーされたことがある』『部長のお嬢さんと結婚させられそうになった』などなど同情してもらえそうなものを厳選して話した。
なのに『それは大変だったね』と全てその一言で終了。
俺が自分の話ばかりしてるからなのかと思い『白城さんの話も聞いてみたいです』と言うと『僕は話が上手じゃないから佐野くんが話して』と言われてしまい、俺の心は折れそうになった。
ようやくみんなが言っていた『平凡でつまらない』の意味がわかった。
白城さんは他人と一定の距離以上は近付いてこない。
相槌も必要最低限で自分の話もしてこない。
そりゃあ周りからつまらないと思われるはずだ。

だけどそのことで俺は火がついた。
絶対、白城さんの興味を自分に向けてもらう と。
唯一白城さんは俺の仕事の失敗談だけはいつも興味を示してくれる。
いつもニコニコ笑ってる白城さんはその話だけは驚いたり、困ったように笑ったり、楽しそうだったりと色んな顔を見せてくれる。
少し複雑だが今日のランチも先輩に怒られた話をこしらえて、俺は総務課へと向かう。






なんで…、なんで先輩と白城さんが…

仕事について先輩に聞こうとしたことを思い出し、先輩がいつもいる喫煙ルームに行くとそこに先輩は居なかった。
はぁとため息つき、ふと目線を部屋の外に向けると、ちょうど探していた先輩がいた。
そしてその隣には俺の見たことのない顔をしている白城さんもいた。
驚いて目を見開き、食い入るように見ていると、楽し気に笑いお互いボディータッチもしていた。

その光景にズキリと突然胸が痛くなり、立っていられなくなった。
頭の中には『なんで』や『俺の知らない白城さんの表情』とたくさんの思いが浮かび
そして先輩への負の感情が止めどなく押し寄せてきた。

白城さんを落とすつもりが、知らず知らずのうちにいつの間にか、俺の方が白城さんに落ちてしまっていたらしい。
泣きたい気持ちを必死に抑え、今すぐにでもこの場から離れて何処か1人になれる場所へと行こうと部屋から出ると
『幸治め…余計なことしやがって』『お礼も言えねぇのかよ、正樹』と2人の声が耳に入り、耐えきれずとうとう涙が零れた。




結局あの日は早退した。
俺の見たことの無い白城さんの表情や、お互いを名前で呼び合うほどの仲だということに勝手に嫉妬し
その上せっかく俺を心配し『なんかあったのか?大丈夫か?』と連絡をくれた先輩を俺は無視した。

先輩と白城さんが仲良いなんて知らなかった。
それになんで仲の良い白城さんを俺に落とせと言ったのかもよくわからない。
ああ…、今思えば白城さんは俺の失敗話に興味があったんじゃなくて、先輩の話に興味あったからあんなに食いついてたんだなと気付く。

憂鬱になりながらもデスクに座ると、トントンと誰かに肩を叩かれた。
驚いてそちらを見るといつもと変わらない表情をしている白城さんがそこにはいた。
「金曜早退したらしいけど何かあったの?」
「…先輩から聞いたんですか?」
「うん…幸治が心配してたよ」
またあの時の事を思い出し胸が痛む。
耐えきれず『もう大丈夫なんで…』と言い、勢いよくデスクから立ち、俺は走り出した。
そして人気の無いところについてゆっくり腰を下ろし、心臓に手を当てた。

痛い…もう嫌だ、なんでこんな思いをしなきゃいけないんだよ…

零れそうな涙が落ちないように上を向くと何故かそこには白城さんの顔があった。

「全然大丈夫そうには見えないけど?」
「…着いて、きたんですか…」
「様子がおかしかったからね」
白城さんの優しさが今は辛い。

「白城さん…、俺…」
「ん?」
「俺、先輩と賭けてたんです。白城さんを落としたら昼飯を1週間奢ってもらうって…でももう疲れたのでその賭けはやめます。今まで付き纏ってすいませんでした。」
本当はもっと酷いことを言って嫌われようと思った。
だけど俺の最後のプライドで、あれ以上嫌われるようなことは言えなかった。
だけどこれで白城さんは俺を軽蔑したはず…

「知ってたよ。金曜に幸治から教えてもらったから」
「…まぁ、そーいうことなんで」
言いたいことも言い終わり、早々に立ち去ろうと白城さんの横を通り過ぎたが、すんでの所で止められた。

「まだ何か用ですか?」
「その賭けさぁ、まず賭けになってないんだよね」
「…?」
「佐野くんに話し掛けられる前から僕、佐野くんのこと好きだったし」
思わず驚いて白城さんをまじまじと見てしまった。

「…え?」
「幸治がいつも『今日は佐野がー』とか言って佐野くんの事を褒めるんだよ。だけど話を聞いてるうちにどんどん僕は会ったこともない佐野くんの事を好きになっちゃって、気付けば本物の佐野くんを影からこっそり見るようにまでなったんだ」
「待ってください…え?」
「そんで酔った勢いで幸治に言っちゃったんだよ。『佐野くんが部下なんて羨ましい。僕も佐野くんと一緒に居たい』って。それで幸治は僕の気持ちを知り、佐野くんと賭けをしたんだよ」
あいつは昔から僕に対してお節介焼きだから…

さっきから信じられないことだらけで頭がパンクしそうだ。
元々白城さんは俺の事が好きだった?
なんだよ…なんだよ…

「ふふふふっ、ははは」
思わず口から笑い声が出てしまう。
あんなに悩み、涙を流していたのも馬鹿らしく思えてきた。



「落とした責任は、俺がちゃんととりますね」
「ああ…。そうしてくれると嬉しい」







解説
『相談女』という者がいると知り、それの男バージョンを見てみたいなと思い書いたが、想像通りに行かなかったです。

先輩と白城さんは幼馴染。
一定以上はなかなか人を寄せ付けない白城さんに変わって先輩が今まで色んな事をしてあげていた。
一応会社内ではお互い苗字で呼んでるけど、プライベートでは名前呼び。
白城さんは社長の息子。


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bkm
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