この閉塞的な空間が狂おしい程に嫌いで、しかし自分は此処から逃げ出す術を持たない。
苦しい。痛い。恐い。悲しい。辛い。
心に去来する感情はどれも暗く陰鬱で、ただ精神を苛み、疲弊させ、削り取っていく。研究という名目で行われた人体実験の影響で二極化した彼の自我は酷く不安定で、それを更に加速させた。
「…っ、」
無意識に、包帯で覆われた右目を抑える。気付いたオニキスが、心配そうに顔を寄せた。
「アレルヤ、大丈夫?」
「…平気だよ、オニキス。」
自分と言う存在すら、指の隙間からするりと取り零してしまいそうな恐怖感。今こうして生きていることさえ、まるで他人事のように曖昧だった。
二人は無機的な壁が四方を囲む部屋にいた。灰色の壁には、小さな窓がぽっかりと口を開いている。
青空でもない、星空でもない。
ただ人工的に作られたコロニーの白い天井が見えるだけのその窓は、眺めても到底気分を紛らわすことなど出来はしなかった。
「…狭い、ね。」
不意に、アレルヤが言った。唐突な言葉だったが、オニキスは特に驚きもせずに頷きを返す。何が、と聞くまでもなく、それが何を指しているのか理解出来た。
「…そうだね。」
銀色の視線を辿り、四角く切り取られた窓枠の向こう、世界の外を見る。
外界と隔絶されたこの建物の中が自分達にとっての世界の全てで、世界はそれ以上の広がりを見せはしない。
「こんなにも、狭い。」
その声音には、諦めと絶望が入り雑じっていた。異論はなかった。世界は狭い。少なくとも、自分達にとっては。
オニキスは隣に座って小さく蹲るアレルヤを見詰めた。
「うん。だけど…」
繋いだ手に、ぎゅう、と力を籠める。
「キミとボクが一緒にいられないほど、この世界は狭くないよ。」
二人でいるには十分な広さだと、オニキスは笑った。ぴたりと寄り添った体から、お互いの温い体温が伝わる。
「…そうだね。」
僅かな沈黙の後、アレルヤが微笑んだ。それは力なく憔悴した笑顔だったけれど。
「そうだよ。」
漸く見られた彼の笑顔に、それだけで、何かが満たされる気がした。
籠の中の鳥世界は狭く、けれど隣に君がいる。
20091213
500,000HIT御礼企画
フリーリクエスト
ハプティズムどちらかの切甘夢
「キミとボクが一緒にいられないほど、この世界は狭くないよ」
妃桐朱華様リクエスト
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時間軸的にはアレルヤが脳量子波の処置を受けた直後くらいですかねたぶん。リクエストありがとうございました^^
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