「…オニキス!」

後ろから聞こえた声に、格納庫に続く廊下の曲がり角で足を止める。

「何か御用ですか?エーカー中尉」

一つに纏めた黒髪をふわりと揺らして振り返り、オニキスは此方に歩いてくる上官の碧い瞳を見上げた。

「いや、その…何だ、用と言う程でも無いが…いや」

その上目がちな視線を受けた途端、グラハムはオニキスから目を逸らして口ごもる。

「無くは、ないな。私からしてみればこれも立派な用向きであると言えよう。」

仕事中、殊にMS戦中は相手を口説いているのかと思うほど流暢な口上を並べ立てているのに、一度オニキスの前に立てばその演技掛かった台詞回しは何処へやら。
日頃の話し方が奇抜すぎる所為か、言葉に詰まるその様子は新鮮さを通り越してどこか滑稽ですらある。

「エーカー中尉?」

「い…、いい天気だなオニキス!」

思考がまとまったのかと思えば、一息ついて顔を上げたグラハムの口から飛び出したのはそんな一言だった。

「…は?」

オニキスは訳がわからずキョトンとした表情を浮かべる。そして訪れる暫しの沈黙。

「え…ええ、そう…ですね?」

我に返って取り繕うようにそう答えた。窓の外を見れば、一面に広がる澄み渡った青い空。所々に浮かんだ真っ白な雲がその青さを強調し、宙を舞うMSの機影が時折太陽を反射して光を放つ。

確かにいい天気ではあるが、わざわざ勤務時間中に呼び止めるほどの内容かと問われれば、そうでもない気がする。

「違う、そうではなくてだな…」

「あの、どうかなさったんですか?」

挙動不審な上官に、オニキスは首を傾げる。言いたいことは至極明解であるのに、上手く言葉が浮かんでこない歯痒さにグラハムは掌で顔を覆った。

「その…何だ……そう、休日だ。オニキス、君は明日休暇だと聞いた。」

一つずつ、何を言いたいのか、何の為にオニキスを呼び止めたのかを思い出しながら慎重に言葉を紡ぐ。

「え?はい、確かに明日は休暇をいただきましたけど…それが何か?」

「君さえよければ…なんだが…」

当初の目的を果たすべく、グラハムは一端そこで言葉を区切り、漸くオニキスの瞳を真っ直ぐに見つめた。

「予定がなければ、何処か食事にでも行かないか?」

「食事、ですか?」

たったそれだけのことを言う為にあれほど取り乱していたのかと思うと、可笑しさと嬉しさが込み上げ、オニキスは顔を綻ばせる。

「はい…!よろこんで!」





(全く…ガンダム相手だとあれだけ恥ずかしい台詞を平気で言ってのけるくせに…)

(む…、やかましいぞカタギリ。彼女をガンダムと一緒にするな…!)



グラハムの乙女座センチメンタリズム度↓
オニキス>>>越えられない壁>>ガンダム





20090306



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