窓越しの空に広がるのは、見ているだけで陰鬱な気分になるダークグレーの曇天。そこから絶え間なく降り頻る大粒の雨。加えて時折天を裂くように走る稲妻と、少し遅れて響く轟雷。
「…嫌な天気だ。」
グラハムは二人掛けのソファに背を預けながら無意識にそう呟いた。
青白い閃光が室内を満たす。近くに落ちたのだろうか。その直後一際大きな雷鳴が部屋を震わせた。
反射的に、僅かに身が竦む。
そんな自分に嫌気がさして、グラハムは自らに向けて嘲笑を浮かべた。
「全く…嫌な天気だ…」
“あの日”も、こんな天気だった。
夜になっても帰らない両親。叩きつける暴風雨。真っ暗な室内。稲光。落雷。
まだ幼かったながらも、記憶は鮮明に彼の中に残っている。
部屋の隅で独り膝を抱えて、ただひたすら両親の帰りを待ち続けたあの日。
結局、幾日経っても彼の元に両親が帰ることはなく…――
グラハムは碧眼を細めて顔を覆う。幼き日の自分が両親を失い孤児となった日も、今みたいに激しい雷が鳴っていた。あまり思い出したくない記憶だが、いくら忘れたフリをしようとしても鳴り響く雷鳴が否応なしに過去を呼び覚ます。
雷の日は苦手だった。沈む思考に苦々しい思いで溜息をつくと、それを救い上げるように背後からふわりと腕が回される。
「…?」
驚いて振り向くと、直ぐ横にオニキスの顔があった。
「…オニキス?」
「うん。ただいま、グラハム」
雷が止む気配は今だなく、窓の外が眩く光を放つ。間髪入れずに響く轟音。雷雲はかなり近い所にあるらしい。
「出掛けていたんじゃなかったのか?」
「今、帰ってきたの。」
それなのにグラハムったら返事してくれないし、ぼーっと座ったまま動かないから、とオニキスはソファの背中越しに回した腕に力を込めた。頬に柔らかな髪が触れる。ほのかに甘い香りが鼻先を掠め、グラハムはふと頬を緩めた。
「それは…すまなかった、オニキス」
雨足が強くなったのか、滴が地面を叩く音が室内に反響する。グラハムは首元に回された手を解くと、オニキスを自分の膝の上に誘い、そこに座らせた。
「…グラハム?」
伺い見るように顔を上げるオニキスの額に軽く唇を寄せ、温かなその身体を抱き竦める。じんわりと伝わる体温が、穏やかな安堵感を与えてくれた。
「暫く、このままでいてくれないか?この雷が止むまででいい…」
返事の代わりにオニキスは自分の手を、腰に回されたグラハムの手に重ねる。ほんの少しだけ、この雷が止まなければいいのに…と。
そう思った。
20090506
因みにグラハム=孤児は公式ドラマCDのネタ
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