私と彼の奇妙な関係が始まったのは一年ほど前からだ。



「秋って何でこんなに空が高いんだろ」

「…何でだろうなぁ」

頬を撫でる風はいつの間にか身を引き締める冷たさを帯びていた。触れれば割れそうな薄い水色の空は、心を見透かされそうなほど澄んでいる。
私はセダン車のボンネットに座ってぼんやりと雲の流れを追い、彼は運転席のドアに凭れ掛かって煙草を燻らせた。

「秋は嫌い」

「何でだ?」

「引き離されてる感じがするでしょ」

誰と、までは言わなかったが、ライルは意味を察したらしかった。あぁ、そうだなと小さく同意すると、短くなった煙草を地面に落とし爪先でぐしゃりと踏みつける。

「お前案外ロマンチストだな」

「そうよ」

空が遠くなる。彼が遠くなる。

別に死者が星になるという子供じみた逸話を信じている訳ではない。
ただ彼が死んだのはこの遠い空の彼方で、彼女が死んだのもまた、この遠い空の彼方だった。

日を追うにつれ高くなっていく空が、徐々に褪せていく記憶を必死にかき集めようと藻掻く私を嘲笑う。

「オニキス、」

不意に名前を呼ばれて視線を移すと、視界が影に遮られた。

うわべだけのキスをする。

ライルの纏う煙の臭いが鼻腔を擽った。
恋人同士などという甘い関係ではない。強いて言うなら私の恋人が彼の兄で、彼の恋人が私の親友だった。それだけだ。

だった、のだ。今となっては、それも過去でしかない。

「冷えてきたね」

知らぬ間に体温を奪われたらしかった。小さく一つ身震いをして隣を見ると、よく知った顔の男が見知らぬ表情を浮かべて空を見上げている。

「あぁ。何もしなくてもあっという間に冬が来て、直に春になるんだろうさ」

時の流れは残酷で、清々しさすら感じるほど無慈悲だ。懐かしみ、慈しむ暇さえ与えず、愛おしいあの日々を一枚一枚剥ぎ取るように奪い取っていく。

だから私は彼にニールの面影を重ね、おそらく彼も私にアニューの記憶の欠片を探す。
かつての日々が現実だったことを確かめるために。

「そろそろ戻るか」

「うん」

互いが満たされる日が、永遠に来ないことを知っている。

それでもきっと私達は、このままお互いを求め合っていくのだろう。近すぎず、けれど遠くないこの微妙な距離に安定を見出だし、失った空白からこれ以上亀裂が広がらないように、お互いを利用しながら傷を誤魔化し、寄り添い合って生きていく。

















20111015



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