あぁ、しくじった。
最初に浮かんだのはそれだった。悔恨も恐怖も、憎悪も懺悔も後悔も、何もない。
ただ、しくじった、と。そう思った。
擬似とは言え紛れもない太陽炉を搭載した敵軍のMSは、たった5機のガンダムで相手をするには荷が重すぎた。否、私達はそれを承知で戦うことを選んだのだ。いずれこうなったであろうことを、心の何処かで予見していたのかもしれない。
それ故の無感か、と自嘲気味に笑う口からまた一塊の赤い液体が吐き出される。飛沫は赤い真珠のように大破したコックピット内を浮遊して、霞み始めた視界に鮮やかな彩りを添えた。
『…!オニキス…!』
「ティ…、エ…?よかっ……無事、で…」
ノイズの入り交じる通信機から聞こえたティエリアの声に、オニキスはふと頬を緩める。域値を越えたらしい痛覚は、最早あって無いようなもの。気怠い倦怠感が包む腕を懸命に伸ばし、決して触れられない彼の手を探し彷徨う。
「ごめん、ね…」
彼が無事だったのなら、それでいい。愛する者を護って死ぬ。それは一番身勝手で、一番幸せな死に方なのかもしれない。
「……ごめん…、先…逝くね………」
「オニキス…?」
それきり何も言わなくなった通信機。目の前で起こった惨劇の全てを否定するかのように小さく首を振り、沈黙したオニキスに向かってティエリアは何度も繰り返し呼び掛ける。
「オニキス、返事をしろオニキス…!」
虚しく響き渡る声。目の前には、自分を庇い見るも無残に大破したオニキスのMS。
「嘘、だ……嘘だ…!」
これは悪い夢だ。夢であるに違いない。これまで誰よりも現実主義的であった自分が、今誰よりも現実を受け入れまいとしている。振り払えない悪夢から、逃れようと必死に。
耳に残るは愛しい貴方の最期に声が聞けてよかった。
20080501
Req≫ティエリアを庇う夢主死ネタ
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