「ティエリア!」
長年の計画が実行に移されるその日。初めての“実戦”を目前に控え、機体収容コンテナに向かう途中で後ろから掛かった声に、ティエリアはゆっくりと振り返る。
「…オニキス。」
ふわりと無重力空間を移動し、彼の前に降り立つオニキス。パイロットスーツに袖を通した彼女の表情は何処か緊張で強張っていて、ヘルメットを抱えている手には必要以上の力が籠もっているように見えた。
「…これ。」
いつも彼女が身につけている首飾り。母親の形見だと言うそれを、オニキスはティエリアの前に差し出す。
「何のつもりだ?」
「持ってて欲しいの。」
訝し気に眉をひそめるティエリアに、オニキスはただそれだけを言って口を閉ざした。
馬鹿げた事かもしれない。分かり切っていたことなのに、これから赴く場所への恐怖が振り払えないのだ。
いくらオーバーテクノロジーを集結させた機体であるとは言え、一歩間違えばそれは自身の死に直結する。一番大切な物を一番大切な人に預けることで、必ずまたここに戻って彼と顔を合わせるのだと、そう自分を奮い立たせようとしているのかもしれない。
「…預からせてもらう。」
意図を察したのか、少しの間思案してそれを受け取ると、代わりにティエリアは眼鏡を外しオニキスにそれを手渡した。
「ティエリア?」
「持っていろ。ミッションが終わったら返してもらう。」
「うん!」
肩口で切り揃えた紫の髪をなびかせ、踵を返し様にティエリアが言った言葉に、オニキスは大きく頷いた。
鼓舞きっと、大丈夫。
20080427
パイスティエリアが眼鏡掛けてないのは、オニキスに預けてるからっていう捏造←
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