ジリジリと焼け付くような真夏の陽射し。眩しいほどに白い砂浜と、目前に広がるコバルトブルーの大パノラマ。
そして。
「…反則よ、反則。」
「何だぁ?急に。」
ビーチパラソルの下で黙々と腕に日焼け止めを塗るオニキスは、今だに隣に座る彼を直視出来ないでいた。服の上から想像していた限りでは痩身であるのに、いや、痩身であることに変わりはないのだが、予想外だったのはその体格の良さだ。
(腹筋、割れてるし…。)
同じマイスターの一人であるアレルヤの体格の良さは日頃から目に明らかだが、まさかロックオンまでそれに勝るとも劣らない体をしていたとは。
「そんなに着痩せするタイプだったなんて…知らなかった…。」
恋人とは言え、まだ健全な付き合いの範囲内でしかない。水着姿ではあるが裸を見たのはこれが初めてで、まともに目も合わせられない。
長い手足に程よく筋肉の付いた色白の肌。翡翠の瞳に甘いマスク。きっとここが無人島でなければ、浜辺の女の子達の視線は彼に釘付けに違いない。
「…そりゃ、俺も同意見だね。」
「太ってるってこと…!?」
「いや、そうじゃなくて…」
胸だよ胸、と、ロックオンは声には出さずに黒いビキニに収まった双丘にチラ、と目をやった。
豊富と言えるかどうかはわからないがそれなりの女性経験はあるし、夜を共にした女だっている。水着姿くらいで動揺するなんてらしくないと思いつつも、上がり気味の心拍数は収まりそうにない。相手が惚れた女だとこうまで違うのかと、ロックオンは浮き足立った自分に苦笑を浮かべた。
「お前、それ破壊力あり過ぎ…」
「へ…?破壊力…?」
「…こっちの話。」
そんな彼の心中など露知らず、ビキニなんて着るんじゃなかったと顔を覆うオニキス。鈍感なのか天然なのか、本人は自分の水着姿の破壊力(無論理性の)には気付いていないらしい。
「…なぁオニキス、」
「何?」
「それ。日焼け止め、塗り終わったか?」
「…あ、うん。あと背中…」
「よし、なら俺が塗ってやるよ。」
「え…ええぇ!?」
突拍子もない申し出にオニキスはぶんぶんと首を横に振った。あまりに露骨な恥じらい方に、ロックオンは思わず声を立てて笑う。
「い…、いいよ自分で塗るから…!」
「まぁそう遠慮しなさんな。どうせ自分じゃ塗れねぇだろ?」
「あ、ちょっとロックオ…」
「ほら、後ろ向け。」
有無を言わさず強引にオニキスの手から日焼け止めを奪い、肩に手を掛けくるりと横を向かせて背中に向き合うロックオン。
「あの…っ」
「塗るぞー?」
「…やっ」
手の平の上にトロリと日焼け止めを垂らし、そっと背中に触れる。反射的にぴくんと肩を震わせたが、オニキスはそのまま大人しく日焼け止めを塗られる気になったようだった。
(うわ、やべぇかも…俺…。)
触れているのは紛れもない、オニキスの素肌だ。意識しなくても鼓動が高鳴る。ゆっくりと手を下に滑らせて、ロックオンは乳白色のクリームを万遍無く伸ばしていく。
「……あ…っ、」
「こらこらオニキス、変な声出すなって。」
余裕ぶってからかってみるが、実際のところそんな物はオニキスの水着姿を見た時点から吹き飛んでいる。
「ちょ…、ロック……普通に、塗っ、て……っ」
「普通だって…」
「…絶対……嘘……ん…っ、」
柔らかな肌に手を這わせ、ゆっくりと指先でなぞり、堪能する。そう、愛撫を贈るみたいに。当初の目的など、オニキスに触れる為の口実に過ぎなかったのだ。
「……ロックオン…」
擽ったくて仕方がないのに何故かもっと触れてほしいと思うのは、きっとこの手が他ならぬロックオンの物だからなのだろう。背筋を往復する優しい感覚に、だんだん変な気分になっていく。心臓の音が煩い。呼吸をすることすら忘れてしまいそうで、オニキスはきゅっと目を瞑った。
「煽ってんのか…?そんな声出されたら、このまま部屋に持ち帰りたくなるだろ…。」
「…」
「…オニキス?」
てっきり変態!と罵倒されるかと思ったのだが。意に反して耳まで真っ赤に染めて押し黙ったオニキスに、今日ならば奥手な彼女もなびいてくれるかもしれない、と。
「夜…、」
「…え?」
そんな淡い期待を込めて、ロックオンはその耳元に唇を寄せた。
「その気になったら、俺の部屋来いよ。…待ってるから、さ。」
「…ッ!!!」
シーサイドラブストーリー細波の音を聞きながら、
君ととびきり熱い夜を。
20080711
100,000HIT御礼企画
台詞リクエスト
お前、それ破壊力ありすぎ。
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