最早原型を留めないほど大破した機体は、辛うじてコックピットが残っているだけの状態だった。それは最期の戦いの壮絶さを黙して語り、かけがえのない仲間を失った現実を、嫌が応にも突き付けていた。


家族を奪った仇敵への復讐。
あれほど他者を想い、慈しみ、守ろうとしていた彼が、自らの命を省みることはなく。

着艦したデュナメスの操縦席には、相棒の名を呼び続けるハロの姿があるだけだった。



周囲が寝静まったあと、私は毎夜、こうして無人のコックピットに潜り込んでいる。

無惨に抉られた装甲。操縦席に残る血痕を指でなぞる。こんな所にいても温もりなど感じられはしないのに、気付けば無意識に、両足はここを目指していた。


戦争の根絶、恒久和平の実現。大義名分を掲げ、綺麗な理想で本質を隠し、やっているのは紛れもない、人殺しだ。

因果は巡る。

いずれ誰かを失うことになろうことは、此処に身を置く者なら誰しも、少なからず覚悟はしていた。オニキスとて例外ではない。そしてその最初の犠牲者が、ロックオン・ストラトスだった。

「……何で…言っておかなかったんだろ…」

空しく反響した言葉に自嘲する。今さらどれだけ悔やんでも、もう遅い。過ぎた時は戻らず、死人が還ることはない。彼は手の届かない場所へと、逝ってしまった。

「たったの…一言、だったのに…何で……」










―どうした?オニキス。

名前を呼んでくれたあの声が、

―そんな顔しなさんな。大丈夫だ。

不安でいると頭を撫でてくれたあの手が、

―安心しろ、俺達がついてる。

優しく微笑んでくれた翡翠の瞳が。










ずっと、好きだった。



たとえば彼が生きているうちにそれを告げたなら、何かが変わっていたかもしれない。今とは違う未来があったのかもしれない。

否。それは単なる、遺された者のエゴだ。

「……き、」

もっと彼のことを知りたかった。まだ彼に言いたいことがたくさんあった。

「好き…。好きだよ、ロックオン……」

涙が枯れるなんて、きっと嘘だ。拭っても拭っても、止めどなく溢れる雫石は、この無重力の空間にまるで真珠を散らすようにパラパラと散っていく。このコックピットに主が戻ることは、もう二度とない。

「あなたが…、好きだった…」

永遠に彼に届くことのない言霊は、浮いた涙の雫石と共に、ふわりと宙に溶けて消えた。





罌粟-Dear

悲しみを抱いて眠る。











20110716



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