「オニキス…どうしてこんなことを…」

その声音に嗜めの色はなく、オニキスはただアレルヤの言葉に黙って俯いた。彼の大きな手に納まった白い手首には、つい先程つけたばかりの真紅の十字傷。薄らと浮かぶ血珠はやがて腕を伝い、彼の手の平に移る。

「痛く、無いの?」

「…わからない。」

この自虐的な行為が何の為に行われるのか、何を満たす為の行動なのか、彼女自身にもはっきりとはわかっていなかった。アレルヤの問い掛けにオニキスは力無く首を振り、瞳を伏せる。長い睫毛が影を落としたその表情を見つめ、依然包み込むようにオニキスの手首を掴んだまま、アレルヤはその銀色の瞳を悲し気に眇めた。

それきり会話が途絶え、ただ静かな空間にゆっくりと時が流れる。



「…痛いよ。」

長い静寂の後、ぽつりとアレルヤが呟いた。

「アレルヤ?」

ふと顔を上げると、被さるように回される両腕。広い手の平が背中を覆い、反射的に竦んだ身体をそっと引き寄せられる。アレルヤはオニキスを抱き締め、もう一度繰り返した。

「…凄く、痛いんだ。」

「…ごめん、なさい……」

耳元で告げる微かに震えた声。躊躇いながらも手を伸ばし、オニキスは伝わる彼の温もりに身を預けて目を閉じた。







傷つくのは君の腕だけじゃない。











20080421



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