最終放課のチャイムが鳴り終えた。居残りで練習に励む運動部もそろそろ練習を切り上げて帰る頃だ。広げていた数学の問題集を閉じて帰り支度を済ませ、机に突っ伏して暫く待っていると、バタバタと騒がしい足音が近づいてくる。
「紅子。」
「大我くん、お疲れ様。」
「わり、ミーティング長引いた。」
「平気。」
急いでここまで来てくれたのか、少しだけ息を上げた大我くんの声に腰を上げた。鞄を掴んで隣に並ぶと当たり前のように私の右手を拐っていく大きな手。自分の手のひらを覆う暖かさに安堵して、二人で帰路につく。
「…なあ。」
「な、なに?」
いつもより会話の少ない帰り道、突然顔を覗き込むように回り込まれ、どこか上の空だった意識は大我くんによって引き戻される。
「紅子、大丈夫か?」
口数の少なさに流石に大我くんも疑問を持ったようで、心配そうに眉を寄せている。後ろめたいことがある訳ではないが、思わず視線を逸らした。
ただ少し嫌なことがあったのだ。まだ気持ちが上手く切り替えられておらず、胸中が梢のようにざわざわと音を立てている。
「何が?」
「その、何となく、だけど。元気ねえように見える。」
「そんなこと…」
心配は掛けたくなくて、何とか取り繕おうと笑顔を浮かべる。けれど頬はぎこちなく上がるだけで、きっと上手く笑えていない。
「無理すんな。」
ない、と否定するより早く、私の心を見透かす言葉に、我慢していた筈の涙がぶわ、と溢れ出した。
「おわ、紅子!?」
「ふええ…」
「あー…」
びっくりしたような大我くんの声。慌てて目元を押さえたものの、一度堰を切った涙は何度拭っても後から後から溢れてくる。情けなくぐずり始める私の手を引いて、大我くんが足を向けた先は近くのコンビニだった。
「ほら。」
涙を止めることに必死で、大我くんが何を買ったのか見ていなかった私は、突然目の前に差し出された、ほかほかと美味しそうに湯気を立てる肉まんをぽかんと眺めた。
「腹減ってると余計泣きたくなるっつーか、元気出ねえだろ。話したいならどんだけでも聞いてやるから、まずはそれ食ってちょっと落ち着け。」
そう言って彼は左手に持った自分の分の肉まんにかぶりつく。一口でその半分が消える。モグモグと咀嚼しながら、な?と乱暴に頭を撫でてくれる彼に、今度は嬉し涙が溢れた。彼らしい励まし方に顔が綻ぶ。
「…うん、ありがと。」
かじりついた肉まんは、ほかほかと心のなかまで暖めた。
肉まんがおいしい季節ですね。20131208
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