■ ここも地獄も同じだよ

 ぱちぱちと焚き火が音を立てる。最近は少し暖かくなってきたので、焚き火は少し熱く感じる。とはいえ森の中、獣除けには必要であるので、消しはしないが。
 フィンは携帯食の干し肉を炙る。日持ちはするが、別段美味しいわけではない。堅い肉に歯を立て、引きちぎった。

「フィンよ。疲れたか?」
「いや、大丈夫」

 焚き火を挟んで向かいに丸くなるのは白い、鷹だった。琥珀色の瞳が焚き火の色を受けて、揺れている。カルセは細く裂いた干し肉を咀嚼しながら、フィンを見やる。
 フィンは大丈夫だと言うが、その顔色はあまり良くはない。目の下には隈がくっきりと出ている。本来ならば、干し肉よりも消化のいいものを食べるべきなのだろう。

「急いで出国せずとも、もう一晩留まれば良かっただろうに。体調が芳しくないのだから」
「でも、あの国に探し物はなかったから」

 まただ。カルセは溜め息を吐く。
 フィンは、『あるもの』を探している。この旅は、そのための旅だ。楽ではない旅を続けるほどに大切なものなのだと言う。そうして、フィンは、なんだか少し焦りがちなようにも見える。ひとところに留まることが殆どない。一つの国に探し物がないと分かると早々に出国し、新しい場所を探す。カルセはそんなフィンが、少しばかり心配だった。

「フィン」
「なに、カルセ」
「お前はなぜ、そうまでして進む」

 カルセの問いに、フィンは食事をする手を止めた。焚き火越しにカルセへと視線をやる。
 しばらくふたりの間に沈黙が流れ、火が薪を焦がす音だけが周囲に渡る。暗い森の中は音がよく聞こえる。何かが歩き回る音、風が葉を揺らす音。やがて、フィンは口を開いた。

「……止まることと、死ぬことは、同義だと思うんだよ」
「死ぬことと?」
「うん。だって、止まるのは死人でもできる」

 だから、と、フィンは続けた。同時にゴォッと強く風が辺りの木々を揺らし、フィンの言葉に言い知れぬ迫力を与えた。


「僕は進むよ。生きてるからね」


 目的を放棄して生きても、それは死んだのと同じだ。地獄も天国も変わらない、動けるのに動かないのは愚かだ。
 カルセは一瞬間を開けて、ふっと微笑んだ。

「愚問だったな。それもそうだ」
「ね。でも今日はもう眠たいから眠ることにするよ」
「そうしよう」

 眠る支度を始めたフィンとカルセは、特に言葉という言葉は交わさない。そうしてそのまま、いつものように眠りに着くのだ。
 焚き火の火は風邪に煽られて、すこしばかり強くなった。


ここも地獄も同じだよ
(ただし、それは歩みを止めたときだけ)


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