■ 綺麗な死などあるものか

 死というものが、必ずしも劇的であるとは限らない。どれほど功績をあげた者も、輝かしい栄光を持った者も、軽々しく死を迎えることがある。死というものは等しく誰にでも訪れ、違いは、遅いか早いか、くらいなのだろう。
 帷は溜め息を吐いた。最近、行動を共にするようになった少年のことを考えていた。ついこの間、異端者登録された深雪は、自分とは違った考え方をする。生まれた時から異端者登録されていた帷には、到底理解の出来ない考え方だ。所詮は3ヶ月前まで、安穏と暮らしていた一般人である。
 深雪と初めて話をした夜、帷は彼の話を綺麗事だと笑った。綺麗事は、成せればそれに越したことはない。詰まるところ、「こうなったら最高だ」という理想論でもあるからだ。理想は、叶わないから、理想なのだ。

 生きたい、と、帷は思う。蒼空のことを、護りたいと思う。
 だが、必要以上には期待しない。望まない。

 そうでもしないと、心が持たない。帷の手は、殺してしまう。人を殺す、そういう力を、帷は持たされてしまった。生まれた時の身体検査で明らかになって、以来、多くの人を殺めた力だ。
 だが、同時に、蒼空や深雪といる時間を壊したくないと思う。綺麗事だと笑った深雪の話をふと思い出すことがある。

「……だが、」

 望めば望むほどに失った時が怖い。期待して、裏切られたら。
 今では自分の、この命が惜しく思える。簡単に捨てられるものではない、という思いがどこかにある。それほどに、2人の傍は心地好かった。
 ただ、自分は、2人と違う。他人の命をたやすく奪い、そのことに快楽すら感じている、ひどい人間だ。報いはいつか必ず、受けることになるだろう。予感ではなく、確信だ。

「……死に方に、夢は見ていない」

 帷は小さく息を吐いた。
 誰にだって平等に死は訪れる。それが遅いか早いかの差なのだ。死後の世界にだって大した期待をしているわけではない。今生きているこの場所も十分非情で、苦しいのだから、あまり怖くない。

「……きれいに死ねたら、なんてな」

 それが出来たら、きっと後にのこす、あの幼い少女に心配をかけることはないのに。


(出来ないならせめて、)


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