■ 眠りの蛇の子守り

 帰宅したと思ったらDifettareのリーダーであるノッテからアスピデを頼まれた。頼まれてしまった。カロゼッロは以前入ってきたばかりのアスピデに嫌なほど身体をなめられてしまったことがあるため、苦手の対象になっている。
 その為、本来ならいくらノッテの頼みでもアスピデ絡みは全力で断りたい。

「あのさ、悪いけどそれ、他の誰かに頼み直してくれよ。例えばレガメとか、双子とかさ!」
「あいつらは今さっき出掛けたけど」
「え…? あ、じゃあフィオは!? あーステラとか!!」
「フィオは所用でいない。ステラは…寝てる」
「だったら……」
「カロゼッロ。お前、単に逃げたいだけだろ」

 ため息交じりにノッテに真意を見抜かれてしまったカロゼッロは、それならば、と逃げ道を模索する。しかし、この場に似合う言葉を選ぶよりも早く、ノッテが片手を挙げて制す。

「アスは部屋で寝ているから子守りよろしく」

 笑顔で言われる命令には当然断る前に黒髪のリーダーはくるりと背を向けて速足で去っていった。残されたほうは制止しようにも既に人影のない空間に出した腕のやり処が見当たらず、困ってしまった。

「何も起こらなければいいけどな……」


 というよりも、起こってほしくないと表したほうが正しい。自分がアスピデのことを苦手だとわかっていながらあの男は面倒を押し付けたとしか思えない。戻ってきたら何かやり返したいものだ。
 とはいうものの、誰もいなくなった所で一人ぽつんと立っている訳にもいかず、仕方がないのでアスピデが寝ているであろう部屋へ向かう。ゆっくりと中へ入ると、本人はノッテの言葉通りベッドの上でビスと共にスヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。起こさないように近くの椅子に腰を掛け、手に顎を乗せる。

「よく眠るもんだな……」

 無防備に寝息を立てるその様は、まるで小さな子供のようだと思えた。どこにでもいるような普通の。ただいつも通りの少年でいようとした彼は、しかしその蛇のような容姿により人々に受け入れられなかったのだろう。
 だからノッテに名前を付けられ、Defettareに来た。
 欠けた者が集う、この場所に。
 触っても平気かなと思い、試しに頬を突いてみる。
 寝ている時なら大丈夫ではないか。今度は近づく程度なら許可を出しても構わないだろう。
 起きたら言ってみようか…そう思案していると、呻り声をあげながらアスピデがうっすらと瞼を開けた。

「起きたのか?」

 少年は半ば寝ぼけているらしく、ふらふらと上半身を起こした。傍にいるのがカロゼッロだと理解しているのか、またはいないのか、蛇のような容姿をした少年はカロゼッロに抱き付いて再び眠りについてしまう。

「お、おいアス!? …はぁ」

 抱き付かれたことにより完全に身動きが取れなくなってしまったカロゼッロは、少年をどかそうとしたが、わざわざ寝ている彼を二度も起こすわけにもいかず、結局その場に留まった。
 再び接近禁止のことは無しと言おうかと考えるカロゼッロだったが、寝言を呟いているらしい少年の二つに分かれた舌が自分の首筋に僅かに触れた。

「――――!?」

 少しでもなめられたことにより咄嗟に悲鳴を上げるカロゼッロ。そのあまりの大きさに今度は完全に目を覚ましたアスピデは、彼が何故叫んでいるのか、その理由は知る由もなかった。

「おはようカロ…って、どうしたの? そんなに慌てて」
「……お」
「?」
「お前なんか、一生近づくな――!!!!」
















【眠りの蛇の子守り】...fin

◆正月SS企画
黒羽さまより「Defettare」のお子様をお借りしました。



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