目の前に現れた黒猫は、大きく目を見開いた。
信じられないという表情に面食らう姫衣。
敵意がないことを悟っても、斬魄刀から手は引かなかった。
「生きて…おったのか」
震えているその声は、泣いて…いるような気がした。
「…まぁよい、今は一護の回復が先じゃ」
姫衣「ま、待った待った!!あんたの事信用していいかも分からないのに、ついていけるわけないじゃない」
「何を言っておるのだ姫衣」
姫衣「っ!!なんで…私の名前…」
死神「おぉいこっちだ!!」
遠くから聞こえた死神の声に、姫衣はたじろいだ。
「話はあとじゃ。ともかく着いてまいれ」
そう言うと、黒猫の姿が光りだした。
思わず目を腕で覆って光を遮って、そっと外すと黒猫のいた場所に全裸の女性が立っていた。
何が起こっているのかわからずに口を開けたまま固まってしまう。
「何を呆けておる。初めて見たわけでもなかろうに。
ほれ、行くぞ姫衣」
女性は一護を抱えて空を飛んだ。資料でしか見たことがない、古い道具を使っていた。
夢でも見ているかのような気がしたが、すぐに地上から後を追った。
人気のいない断崖の岩のくぼみに、吸い込まれるようにして姿を消した女性と一護。
瞬歩なら、行けなくもない…か。
「おう、ようやく来たか。姫衣」
姫衣「ここに、まさかこんな場所があっただなんて」
驚きながらも、いつでも戦闘できるように身構える。
一護は中央に乱雑に転がされてはいるが、傷が増えたわけではなさそうだ。
「そう身構えずともよい。一護の介抱を手伝うてくれ」
姫衣「なぜ、一護の手助けをするの?そもそも、あなたは何者?どうして私の名前を知っているの?」
「あーもうお前は相変わらずごちゃごちゃ煩いのう!!
後で答えてやるから、今はこやつの回復を急ぐぞ。
…お主も、一護に賭けているのだろう」
姫衣「……わかった。事情は後でじっくり聞くことにするわ」
その女性の回復術はかなり高等な技術だった。
一体この人が何者なのかさっぱり分からないけれど、こんな術をいとも簡単に施してしまう人だ。
只者じゃない。もし勝負することになっても、勝てるかどうか…。
「なにをボーっとしておる」
姫衣「あぁ、いや、別に」
姫衣は手に持っていた包帯を女性に手渡した。
「相変わらず気が利くのう」
言われて初めて、はっと気がついた。
女性に指示されるまでもなく、全ての資材を揃えてお茶まで用意して。
すっかりばっちりサポートしてるじゃん私!!
「さて、お主の口煩い問いに答えてやろう」
女性はお茶を啜りながら、底光りする目で姫衣を見つめた。
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