お題集 | ナノ
 Wait For You(レノ)

「…ケイ」

もうここには居ない、愛した女の名前を呼んだ。彼女は何の前触れもなく突然いなくなって、俺は一人取り残された。彼女が居ない時間は、思った以上に寂しくて、情けないと知りつつも俺は変わらず泣いている。

頬を伝うこの涙を、あの日の彼女なら拭ってくれただろう。少し困ったように、だけどありったけの愛を持って。

意地っ張りでプライドが高くて、だけど誰より愛しいと思った人。彼女を失った部屋からは、まるで生活感が感じられない。多すぎる思い出と微かな匂いと残像を残したまま、温もりが、音が、声が、ここから消えた。冷えた俺の指先が求める温もりは、もうここにはない。抱きしめた君の温もりを忘れられるわけもなく、消せない記憶に囚われたまま。

なのにどうして、君は去った?

そういえば、前に電話したのはいつだったろう。まるで俺を忘れたみたいな態度をとっていたな、ひどいやつだ。どうしてそんな態度が取れるんだ、俺は君がいなくなった時の気持ちのままでいれるわけがないのに。心を砕かれるような、耐えきれないこの痛みと、必死に戦っているというのに。

「どうすれば、戻ってきてくれるんだよ」
『戻らないわ、絶対に戻らない』
「つまんない意地は捨てろよ、と」
『違う!意地なんかじゃない!もう、レノとは一緒にいれない』
「…でも、俺の想いは話した通りだぞ、と」
『そんなこと言われたって…もうレノと一緒にはいれないんだから仕方ないじゃない!』
「違う、ケイは何も分かってない」
『何が分かってないっていうの?私のことなのよ?私のことは私が一番よく分かってるもの!』
「じゃあ、電話越しじゃなくて俺の目を真っ直ぐ見てそう言えるか?もう俺がいらないって言えるのか?」
『……言えるわ』
「…相変わらず嘘は下手だな、と。まだ俺のこと愛してるだろ」
『っ、もう、愛してない』
「これ以上ケイを想って情けなく泣き続けるのはごめんだぞ、と」
『…もう、忘れて』
「…」
『もう私のことは、忘れて。…今までありがとう、レノ。さよなら』

プライドの為に俺から逃げ隠れして、自分の気持ちからも逃げ隠れする。そんなに向き合うのが怖い?

いっそもう一度やり直してみればいい。ここに帰ってきて、二人のあるべき姿に戻ればいい。あと一度だけチャンスをくれるなら、もう絶対に繰り返させないのに、もう二度と離さないのに。それでも彼女は、イエスとは言わなかった。

―――待ち続けること。

それしか俺には、もう出来ない。時間切れだなんて言葉聞きたくもない。終わりを告げるそんな言葉、どうか言わないで。

彼女になら一生を捧げてもいいと思えたのだ。例えそのために、どんな犠牲を払ったとしても。一人でも平気でしょ、だなんて、彼女は言ったけれど、そんなことはない。俺はケイと一緒にいたい。ケイに側に居てほしい。

だから俺は、待ち続ける。待ち続けると、彼女に告げた。この心が砂のように粉々に砕かれたとしても、痛みすら感じない心になってしまったとしても。そして俺が俺でなくなってしまう、その瞬間まで。

Wait For You
(俺は待つよ、この場所で、ずっと。)

2011.08.27

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