FAINAL FANTASY 7 | ナノ

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気がつけば空は薄暗い雲に覆われていて、外は暗く淀んでいた。不意に窓を閉じかけた手が止まる。いつの間にか降り出した雨を部屋の窓から眺めているレノの瞳は、ふと遠いあの日を思い出した。

しばらくは思い出さずにいた、ケイのこと。

昔はよく笑いあっていた。レノがタークスだと知ってもなお、ケイはレノの側を離れなかった。愛し合って、それでも足りないくらいに愛し合って、きっと命が尽きるまで側にいる人だと、きっとお互いに思っていたし、それが当たり前だと信じて疑わなかった。

けれど、いつしか些細な諍いが続き、日に日にお互いの気持ちにすれ違いが生じた。あんなに笑顔の素敵だったケイから笑顔はなくなり、涙と怒りに暮れるケイ。そんなケイの態度に苛立ち、反発して家にも帰らなくなったレノ。

別れを告げたのはケイだった。

泣きながらもう無理なのだと声を上げるケイを、レノは最後に抱きしめることも出来ないまま、ケイは荷物を纏めて家を出た。それ以来、二人は一度も連絡を取り合っていないし、もちろん、会ってすらいない。

別れてからしばらく、レノは絶望に打ちひしがれていた。どんなに喧嘩をしようと、どんなに家中嫌な雰囲気に包まれていようと、ケイは必ず二人分の温かい食事を用意していたし、家だって綺麗に掃除していた。最後に一緒に二人で食事をしたのはいつだったのか、むしろ最後にケイの手料理を食べたのはいつだったのかすら思い出せないまま、心も体も離れてしまったのだ。

レノが後悔するのに、時間はそうかからなかった。

ケイは一体どれ程寂しい想いをしたのだろう。そしてレノ自身もまた、どれだけつらい想いをしてきたのだろう。拭いきれない二人のそんな感情も、毎日あの冷めた朝の光の中でうやむやにしてきた。すれ違ってしまったものをいつしか正せなくなってしまっていた二人は、わざと心にもない裏腹な言葉で傷つけ合うようになってしまった。

過ぎ去った時間は、静かにかけがえのないものを、遠ざかっていくほど鮮やかにうつしだす。どんなに喧嘩をしようと、そうやってどんなにやるせない日々を超えてきても、本当はいつも、帰ってきたときにそこにあるケイの温もりだけを頼りにしていたというのに。

失くしてからでは、何もかも遅いのだ。

ぼんやりと愛おしい彼女を思っていると、やがて雨音は途切れ始め、街がにわかに動き始める。レノが視線を空に移せば、薄暗い雲が滑り始めていつもの青空が垣間見える。どうやら、ただの通り雨だったらしい。独りっきりじゃだだっ広いだけの部屋は明るさを取り戻し、明け渡した窓から吹き込んできた風が優しく頬をなでていく。

レノはそのまま、抱きしめることも叶わなかった己のてのひらを見つめて思った。ケイがいなければ、この雨も、雲も、街も、風も、窓も、光も、冷めた朝も、夜も、微笑みも、涙も、まるで無意味だ。

全部、君だった。

今なら、あの最後の夜を越えられるだろうか。今なら、上手にこの想いを伝えられるだろうか。もっと真っすぐに向き合っていれば、君の涙に答えられるだろうか。本当はいつも、その微笑みに答えたかった。この胸はもう苦しくて、切なくて、張り裂けるほどに、かきむしるほどに、全部、全部、


「―――レノ」


ふいに、懐かしい声が聞こえた。レノは空に預けていた視線を、窓の下に移す。

「…ケイ」

今まさに思い描いていた、愛おしい人。ケイはレノを見上げたまま寂しげに笑うと、そのまま顔を伏せ歩き去ろうとした。

「っ、ケイ!待て!」

レノが呼び止めようと、ケイは振り返らない。弾かれたように、レノは部屋を飛び出した。

もう二度と、繰り返さないように。



(待てよケイ!)
(っ、レノ、)
(お前だけだ)
(…)
(お前だけが、俺の全てだった、そう、)



全部、君だった。


(愛してるんだ、もうどこにも行かないでくれ)
(俺はもう、繰り返したくない)


2012.02.11

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