最遊記 | ナノ

「ねぇ」
「ん?」
「…なんでもない」
「なんだそりゃ」
「呼びたかっただけ」
「そーかよ」

「…ねぇ」
「あぁ?」
「呼びたかったの」
「…めんどくせー」

「…ねぇ」
「…」
「ねぇってば」
「…」
「無視しないでよ」
「…」

「おーい」
「…」
「ねぇ悟浄」
「ンだよ!」
「好きだよ」
「………は」
「大好き」
「え、ちょ」
「それだけ」
「ば、おま、」

「…ふふふ」
「笑うなっつーの!」
「だって悟浄、かわいい」
「はあ!?」
「…赤いよ、顔」
「な!?」
「…うそ、赤いのは髪の毛」
「…てんめぇ…」

「……あのね、好きなの、悟浄が」
「…」
「そばにいたいの」
「…それは、」
「分かってる、無理なんだよね」

「…悪ぃ」
「困らせるって分かってたんだけど、伝えたかったの」
「……俺は、俺もお前が、」
「いらない」
「え?」
「いらないよ、悟浄からの返事も告白も」
「黎蘭…」
「つらくなるでしょ、だからいらない」
「…そりゃーずりィな」
「ふふふ」

「…なぁ」
「なあに?」
「…なんでもねェ」
「あ、私の真似した」
「うるせェ」

「…私ね、夢があるの」
「へェ、どんな?」
「素敵な人と結婚して、子どもを生んで、平凡で特別で、ありきたりで幸せな家庭を築くこと」
「…なるほど」
「あのね、悟浄、私、幸せになるよ」
「そうだな、それがいい」
「…なれるかな」
「ダーイジョウブだって、お前、自分で思ってるよるずっといい女だぜ?」
「…ほんとに?」
「俺が保証するんだから、信じろって」
「うん、そうだね、信じる」

「…ま、夢に向かってがんばれよ」
「悟浄は、せいぜい死なないようにね」
「ヘイヘイ」

「……ねぇ、悟浄」
「…呼んでみただけ、ってのはナシだぜ」
「…」
「…」

「……しも…」
「ん?」
「もしも、悟浄が生きて帰ってきて、私がまだ夢を叶えられてなかったら、」
「…なかったら?」
「私の夢、叶えてね」
「…もしも、の話だろ」
「そうだよ、もしも、の話」
「……生きて帰ってきて、お前がまだ結婚してなかったらな」
「…うん」

「…なぁ」
「…なに?」
「俺の夢、今決めた」
「どんなの?」
「お前の夢になること」
「え………っ」
「ちなみに本気」

「……」
「…黎蘭?」
「……そういうの、ずるい…」
「告白でも返事でもないからいいだろーが」
「…おんなじようなもんじゃない…」
「…顔、赤いぜ?」
「っ、うるさい!」
「くくく」
「もうっ、嫌い」
「…本当か?」
「……」
「俺のこと、嫌い?」
「…嫌いじゃない」
「そばにいたいんだろ?」
「そう」
「…幸せになれよ、俺が西へ行っても」
「…ずるい」
「じゃあ言わせろよ」
「…なにを」

「好きだ」
「…っ」

「生きて帰ってくるから、待ってろ」
「…待てないよ、生きてるかどうかもわかんないのに……待てないよ…」
「…泣くなって」
「だから聞きたくなかったの!聞きたくなんかなかった!」
「黎蘭…」
「行かないでって言えない私の身にもなってよ!そばにいてって言えない私の気持ちも考えてよ!」
「…」
「ほんとは笑顔で送り出したかったのに…ずるいよそんなの!」

泣き止まない彼女を、彼は抱きしめることしか出来なかった。

「……もう、やだ」
「何が」
「私、どんどん嫌な女になってく……」
「…」
「そばにいたら困らせちゃうのに、そばにいたくて、わがままになって、どんどん嫌になる…」
「…っ」

今にも泣き崩れてしまいそうな彼女の唇を、彼は荒々しく奪った。あのときあの瞬間、そうすること以外の何が出来ただろう。

しばらくして離れた唇を挟んで、二人は見つめあった。彼女の涙は止まっていた。

今にも泣き出しそうな瞳をその顔に貼り付けたまま、けれども彼女に涙はもうない。真っ直ぐと彼を見つめて、次は彼女から、彼の唇に荒々しく、噛み付くようにキスをした。彼もそれにしっかりと答える。

しばらくして唇が離れると、二人はじっと見つめあい、そして小さく笑いあった。

「…なんか、変なの」
「そうか?」
「だって、私さっきまで泣いてたんだよ」
「まあ、ちょっとキレてたしな」
「悟浄はいちいち一言多いの!」
「くっくっく」

「…ねぇ悟浄」
「ん?」
「好きだよ、大好き」
「へーへー、俺もだよ」
「…生きて帰って、これるといいね」
「俺がそう簡単に妖怪にやられるようなオトコだと思ってるわけ?」
「ううん、だけど煙草ですぐに死んじゃいそう」
「…そっすか」
「私、もっと心に余裕の持てる女になりたいな。もっといい女になって、素敵な人と結ばれたい」
「そうだな、それで幸せになるんだもんな」
「うん、でも悟浄も生きて夢を叶えてね」
「叶えて欲しかったりする?」
「する」

「…じゃあ、誓いのキスでもしとくか」
「約束の指切り、とかじゃないんだ」
「大人だからな」
「でもさっきキスしたよ」
「あれは事故みてぇなもんだろ」
「ひどい、私の精一杯のキスを事故だなんて」
「へったくそだったな」
「私、悟浄と違って純粋なの」
「へいへい、ほら唇よこせ」
「何よー偉そうに」
「いいから」

そうしてまた、唇が、ふれた。



誓いのキス
(そして彼が彼女の夢を叶えるのはまだ先のお話)

2011.10.09 修正

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