恋人観察記その1 〜レノside〜


ケイは最高にイイ女だ。
恋人の俺が断言する。



恋人観察記



今日は珍しくケイと二人、社内の食堂で昼飯を食っている。いつもなら俺はルードと、ケイはイリーナと行くわけだが、生憎(?)今日は二人とも任務で出ている為、自然な流れでこうなった。

目の前のケイは俺に視線を合わすこともなく、伏せ目がちに今朝の神羅新聞を読みながらサンドイッチを食べている。その傍らには煙草にブラックコーヒー。ケイの一番好きな組み合わせだ。

(…ほんと、綺麗だな、と)

恋人である俺がそういうのだからもう間違いない。ケイは自分の容姿をあまりよくは思っていないが、そんなこと思うのはケイ自身くらいなものだと思う。

鎖骨くらいまでの長さがある、イリーナよりも色の薄い少し褪せた金髪。細くて柔らかくて、指に絡めてもさらさらと、指の隙間を縫って流れていく程綺麗な髪。

(髪…触るとすっげぇ気持ちいいんだよな)

もちろん、顔は美しく整っている。しゅっとした輪郭に鼻筋の通った高い鼻、ふっくらとした唇、少し切れ長で猫目の哀愁漂う目。瞳はオッドアイで、左目が青、右目が緑。

(キツイんだけど、実は優しい目元が意外と可愛いんだぞ、と)

実は身長も170センチと高く、スタイルも抜群にいい。少し大きめの形のいい胸(しかも程よい柔らかさ!)、引き締まったウエストにお尻(職業上弛んでちゃ困るしな)、細くて長い白い足(形もいい)。

流石にこんな仕事してるから女性特有の程よい柔らかさっていうのは感じられないが、決して筋肉質ではないので細い(それが妙に色っぽい)。

(あー抱きてぇ)
(なんて、中々言えないけどな…と)

俺がのん気に観察している間にサンドイッチを食べ終えたケイは、新聞を畳んで煙草に火を点けた。ふいにケイと目が合うと、ケイは煙を吐きながら、首を傾げて俺に問いかけてる。

「どうかした?」
「いやぁ、ケイは本当にイイ女だなーと思って見てただけだぞ、と」
「…バカにしてんの?」
「本気だって」
「はいはい」

ケイは俺を適当にあしらうと、コーヒーを飲みながら携帯を確認しだした。公共の場ではとことん俺に対する風当たりが強い気がする。二人きりのときはもうちょっと素直なんだけどな、と。

「なぁケイ」
「何?」
「今日もバッチリ綺麗だぞ、と」
「はぁ?」

ケイは一瞬俺を睨む。次に呆れたように溜め息をつくと、また携帯を弄り始めた。

「溜め息つかれるとちょっと切ないぞ、と」
「そりゃすいませんでしたね」

視線も合わせず淡々と返事をするケイ。こうやってケイの観察をしてるのも、それはそれで楽しいんだけど、なんだかなあ…と。

「ケイー」
「んー」
「構ってー」
「さっきから楽しそうに私のこと見てるじゃない」
「それとこれとは別物だぞ、と」
「どうやって構って欲しいのよ」
「…語る、とか」
「…あんた女子みたいなこと言うのね」

そう言うとケイは俺の方を見てクククッと笑った。本当、昔に比べて随分笑うようになったなあと思う。年を重ねる事にイイ女になっていくケイに、年々愛情は増すばかりだ。

「語りたいなら話題作ってよ」
「えー…最近の恋愛について?」
「…それは、上手くいってないとか愛が冷めたとか言えばいいわけ?」
「…それは勘弁だぞ、と…」

ケイは悪戯っぽく目を細めて少し笑うと、また携帯に視線を返した。

「誰から?」

なんとなく聞けば、目線こそこちらに向けないものの、ケイはちゃんと答えてくれる。

「イリーナ」
「あれ、あいつもう任務終わったのか?」
「何か魔晄炉の調査が面倒なことになってるみたい。どう対応すればいいか分からないからアドバイス下さい、だって」
「そんなもんツォンさんに聞けばいいのにな」
「折角もらえた単独の任務なんだもの、そのツォンさんにいいとこ見せたいんでしょ」

ケイの言葉に、あーなるほど、と納得する。そういえばあいつはツォンさんに惚れてたな、と。

メールを返信するケイをじっと見つめる。後輩思いで、厳しいながらも優しくて、女ながらに(って言ったら本人にしばかれるけどな、と)俺やルードと肩を並べる彼女はデスクワークも得意で、現場での対応も素早くミスも少ない。イレギュラーな事態が起きてもそれに応じた対応がしっかりできる、真面目で出来た社員だ。イリーナにとってケイは頼れるお姉さんみたいな存在なんだろう。

(流石、俺の女は最高にイイ女だぞ、と)

そんな風にケイのことを考えていると、思わず顔がニヤけてしまった。するといつの間にやら携帯をしまってコーヒーも飲み終わってしまっていたケイが、二本目の煙草に火を点けて俺を怪訝そうな顔で見つめていた。ケイの好きなメンソールの煙草の煙がぷかぷかと漂う。

「…何よ、気持ち悪い」
「いやぁ、やっぱりケイはイイ女だな、と」
「はいはいドーモ」

相変わらず本気で取り合ってくれないケイだが、突然何かを思いついたらしく、煙草を灰皿に置くと、手の上に顎を乗せてニッコリと笑いながら俺を見つめてきた。ちょっと小悪魔なその笑顔も、ケイによく似合って綺麗だ、なんて思ってしまう自分は、もしかしたらもうケイが居ないと生きられないのかもしれない。

(俺今まで女に困ったことないのにな…と)

まさかこんな扱いづらくて厄介な女(しかも同僚!)にここまでしっかり心を掴まれてしまうとは、正直思っていなかった。けれど、どんどんケイの素顔を知れば知るほどに、離れがたくなって、愛してしまって、今では当たり前のように側にいる。

「…どうかしたか、と」
「仕返し」
「は?」
「私のこと散々見つめてきたから、仕返し」

思わず笑ってしまった。意外と子どもっぽいこういうところも好きだ。ケイは表情を崩すことなく俺を見つめ続けている。片手には煙草。

俺も吸いたくなって、ポケットから煙草を出すとそれに火をつけた。ケイの煙草よりも癖のある煙の香りが広がる。

「見つめすぎて惚れ直すなよ、と」
「レノは惚れ直したの?」
「俺はいつだってケイに惚れてるぞ、と」
「ふーん。ねぇレノ」
「ん?」
「レノが好き」
「!!?!?」

俺は、固まった。

いや、いやだって、ケイは普段絶対こんな愛の言葉をいうような女じゃ、ない。しかもこんな、公共の場で。

呆然とケイを見つめることしか出来ない俺を見て満足したのか、ケイはクククッと満足そうに笑うと、吸い掛けの煙草を揉み消して立ち上がった。

「…って、さっきここを通って行った女の子が言ってたわよ」
「………は?」
「レノさんかっこいいもう大好きーだって。良かったじゃない」
「…」
「ほら、もうお昼終わりよ。遅刻してツォンさんに怒られても知らないからね」

コーヒーカップと皿の乗ったトレイを食堂の返却口に返すと、ケイは俺のことを振り向きもせずに、一人でさっさと食堂を出て行ってしまった。残された俺は、ケイのしてやったりなあの顔を思い出して思わず苦笑する。

「ったく…ほんっとに掴めない女だぞ、と」

この一本吸い終わってから向かったら完全に遅刻だろうなー、なんて思いながらもゆっくり一服する。ツォンさんからの雷が落ちるのも覚悟で、俺はケイが去って行った跡を見つめながら、幸福な気分に満たされていた。

まあ拘らないのであれば、こんな形であれ、ケイから思いがけない言葉を貰えたのは嬉しい。

…出来ることならケイの言葉として俺に向けてほしかったけれど。

(今日は相棒もイリーナも居ないし、ケイと二人でドライブでもして帰るかな、と)

そのときに、何としてでもケイ好きだと言わせよう、と思うのは、男の意地。そしてある意味、惚れた弱みでもある。

フィルターギリギリまで吸った煙草を揉み消すと、俺は愛しいケイと今頃青筋を浮かべて怒っているであろうツォンさんが待つオフィスに向かった。



backnext→
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -