「ケイちゃん〜遊びにきたぜ〜」
「…私が仕事しているときに?」
「いいじゃんいいじゃん。暇だろ?」
「どこをどう見ればそう見えるのかしら」
「ん〜ケイちゃんの行動とか〜?」
「…あなたの目と脳は相当腐ってるみたいね」
「ひ、ひどっ!俺さましょんぼり〜…」
まあケイが忙しいのは見てればわかるけど、それでも会いたいからわざわざケイの家まで来るわけで。
「私が今なにをしてるか分かる?」
「コーヒーをいれてる」
「私の仕事がなにか分かる?」
「メルトキオで1番おいしい喫茶店の店長さん」
「そう、分かってるじゃない。従業員の数は?」
「ケイちゃん1人で経営してる」
「分かってるならいいわ。今は昼時で忙しいから構ってあげないからね」
「え〜〜〜」
「え〜〜〜じゃない。おとなしく座ってなさい」
ケイはコーヒーをいれると、そのまま客席へ持っていく。淡々とこなされる仕事、それには一切無駄はない。戻ってきたケイに話しかけたら無視された。そしてそのままサンドイッチを作りはじめる。
……おもしろくねぇな。
無視されるのが気に入らない。他の男と笑顔で話してるのが気に入らない。とりあえず暇なのが気に入らない。自分で勝手に来といて何だが、イライラする。
そんな俺を見て、軽く溜め息をついたケイは突然言った。
「ゼロス」
「んー」
「私、本当に忙しいの」
「んー」
「なのにゼロスは暇、邪魔なのよね」
「んー」
「邪魔になるくらいなら手伝ってちょうだい」
「…へ?」
「どうせ暇でしょう?それに早く終われるもの」
手伝ってくれるわよね、と笑顔で言われちゃ答えは1つ。
「…姫の仰せのままに」
ホント、ケイちゃんにだけは適わない。
そして忙しい昼が過ぎ、閉店。
ケイの店は早朝から昼すぎまでの年中無休、時々気まぐれにお休み。それから、昼にベンチで本を読む。毎日そんな感じ。
そんな程度で稼げるのかと聞いたら、自分ひとりが食べていくくらいならこれで問題ないらしい。本を読むのが好きだから、それだけして生きていけるなら働かなくてもいいといっていたくらいなので、必要最低限しか働かないと決めているようだ。
「お疲れ様、なかなかセンスあるんじゃないの?」
「そりゃどーも…毎日よくこんな面倒なこと出来るな〜ケイちゃん」
目の前に差し出されたコーヒーをすすりながら答える。
「こうしなきゃ食べていけないもの」
「俺さまが一生食わせてあげましょ〜か?」
「お断りするわ。他人の力を借りるのは嫌いなの」
「ほんとなんでもハッキリ言うのね〜…俺さましょんぼり」
「…なーんて嘘だけどね」
「ん?」
「お客さんがいなきゃ食べていけないもの、力を借りてるのと変わらないわ」
珍しくシケた顔してるケイ。
そういう顔はして欲しくないんだけど。
「そうかな〜いいんじゃないの?冗談言ったり会話したりしながらこうやって楽しく稼いでるわけだろ?女手ひとつでここまでやってりゃ十分立派だって」
「まあ、そうかもしれないけど」
「じゃあ気にする必要ねぇよ。仕事って結局は必ずしも誰かの力が必要になるわけだし」
「…私、ゼロスのそういうところは好きよ」
「俺さまはケイちゃんの全部が好き」
「…そういうところは大嫌いだけどね」
呆れて言って、ケイは笑った。
つられて俺も、笑った。
暖かな君という場所(君の笑顔のある場所が、やっぱり俺は好き)2011.09.15 修正
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