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朝と夜はくりかえす
時間は二度と戻らない
生きている限り 何もかも全て
どんなに止まったいたって
ちゃんと前に進んでる
私も 貴方も

さぁ 真実の箱を開こう



 ● ●



私はひたすら廊下を歩く。無駄に目的地までの道のりが長く感じられる。目的地へ近づけば近づくほど、人気が少なくなっていき、気付けばその廊下には私ひとりがとぼとぼと歩いていた。

どうやらこの人気の少なさは、この前のことが関係しているらしい。隣にある十番隊舎も、いつもより人が少なかったのはきっとそのせいだろう。

「…」

そんなことを考えていたら、いつの間にか目的地に着いていた。私は今まで一番大きな深呼吸をして、隊首室の扉を叩く。すると中から聞きなれた声が聞こえてきた。

「誰だい?」
「東仙隊長、神風蓮華です」
「…入りなさい」
「失礼します」

私はゆっくりと扉を開く。そこには東仙隊長が座っていた。修兵の気配も、他の人の気配もまったく感じない。東仙隊長はひとり静かに座っている。

東仙隊長の前には、椅子がひとつ用意されていた。それはまるで、私が来るのを知っていたかのように。

「…お話があって、きました」
「…そこへ座りなさい」

私は言われたとおり、用意されてあった椅子に腰掛ける。東仙隊長の瞳は、静かに強く、私を見つめていた。私も目をそらさずに、じっと東仙隊長を見つめ返した。

「…話、とは?」
「…とても大事なことです」
「…長く、なりそうだね」
「はい、とても、長い時間がかかると思います」

東仙隊長は柔らかく微笑んでいた。きっともう隊長は何もかも理解している。私にもそれがひしひしと伝わってきた。

「その前にお聞きしたいのですが…」
「なんだい?」
「九番隊だけ、人がまったくいないのは、やっぱり…」
「…先日の事件で君が眠っている間いろいろとあってね」
「…」
「九番隊自体に五日間の休みを貰ったんだよ」
「なんか…毎回面倒おこしてごめんなさい…」
「まあすんだことだ、気にする事はないよ」

何があったのか、何が起こったのか、それはどうしても聞けなかった。聞く気になれなかったというのもあるが、聞いてはいけない気がしたからだ。

「それはさておき」

東仙隊長は、まっすぐに私を見つめている。私も少し深呼吸をして、じっと彼の目を見つめ返した。

「…何を話しに、その体でわざわざここまで?」
「…真実です」
「真実、とは?」
「二年前、あの事件の日のすべてを、話に来ました」
「…」
「もう逃げるのはやめたんです。夢の中であの人が笑ってくれたから」

私は息を吐き出して、はっきりこう続けた。



「東仙隊長、九番隊三席、神風蓮華、ただいま戻りました」



私がそう言うと、東仙隊長は薄く笑って答えた。

「随分と帰ってくるのが遅かったね」
「ごめんなさい…でも東仙隊長、ほんとは気付いてましたよね?」
「何を?」
「私が…三席の神風蓮華だということです」
「…気付いていたよ」
「いつからお気付きに?」
「三番隊で君と再会してから」

私はその返事に絶句した。初めから私のことに気付いていたというのだから。

「初めから、ですか?」
「最初は分からなかったよ。あまりに変わっていたからね」
「…」
「でもすぐに君だと気付いた。何故だか分かるかい?」
「いえ…まったく」

確かに今までの態度や行動を考えると、私は絶対にクビか三番隊に返されていたに違いないのに、なぜかそうはならなかった。だとすると、東仙隊長がそうしていてくれていたのだろう。しかし何故私だと気付かれてしまったのだろうか、まったく分からない。

「君の刀だ」
「え…?」
「君の刀がずっと、私に叫んでいた。君を助けてやってくれと」
「…蝉時雨が?」

私が自分の殻に閉じこもっていたのを助けてくれと、蝉時雨はずっと東仙隊長に叫んでいたらしい。使い手である私は、そんなことまったく知らなかったし、気付きもしなかったというのに。

「人よりも聴覚が優れているのでね。小さな音でも反応してしまうんだよ」
「なんで、蝉時雨が…」
「刀はどうあがいても刀…君を救いたくても救えなかった、だから私に助けを求めた」
「…」
「相変わらずいい刀だ、使い手の事を一番に考えている。優しい刀だ、大事にしなさい」
「…はい」

ありがとう蝉時雨、心からそう思って自分の斬魄刀を握り締めた。二年間一番私を見てきたのは、きっと君だね。もう心配をかけまいと、私は蝉時雨に誓った。

「…じゃあ私を九番隊に連れてきたのもわざとですか?」
「逃げてばかりでは君らしくないからね」

東仙隊長は笑顔でそう言った。

「ごめんなさい…私、いっぱい迷惑かけて…」
「すんだことを気にしても仕方ない。それに君はもう逃げることをやめたんだろう?」

ならそれでいいじゃないか、と東仙隊長はまた笑った。やっぱりこの人には適う気がしない。

「…ありがとうございます」
「おかえり蓮華」
「…ただいま隊長」

嬉しくて涙が出そうになった。どうしてこの場所はこんなにも暖かいのだろう。

「あの、話の前にひとつだけ聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「霜月…霜月亜季は、どうなりましたか…?」
「…彼女と他の三名はあの後すぐに捕まり、今はずっと牢獄にいる」
「牢獄…」
「心配かい?」
「ちょっとだけ…」
「…そういうところは本当に変わらないね」
「え?」
「優しすぎるところ」
「…私、優しくなんか…」
「あれだけ酷い目にあわされて心配しているのに?」
「それは……」
「…霜月は皆が出勤する日に一度ここへ来るよ」
「本当ですか…?」
「ああ、いろいろと話をしないといけないからね」
「そうですか…」
「聞きたいことはそれだけかい?」
「…はい、それだけです。ありがとうございます」

苦しかった。霜月の修兵への想いがどれだけ強いか知ってしまったから。それに、私が彼女を傷つけたことに変わりはない。私はやっぱり根っからの疫病神なんだろう。

「…じゃあ本題に入ろうか」
「…」

東仙隊長の目は何もかもを見透かしたように鋭く、真剣だった。今から話す、醜く汚い真実をすべて受け止めてくれる気だろう。私もすっと息を吸った。

もう、逃げたりしない。

「…どこから話そうかなあ…」
「…」

懐かしむように、私は瞼を閉じた。


「…二年前のあの日、私は罪を犯しました」

「あの事件の犯人は、他でもなく私です」

「私は醜くて汚い…愚かな女です」

「だって私は、世界で一番大切な人を、あの人を殺してしまった」

「他でもない私が、この手で、」


ぐっと右手を強く握る、そして私はこう告げた。




「私の姉であり修兵の婚約者だった、神風紅を殺した」



封印していた過去への扉は今開かれた。
(もう後戻りは出来ない)

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