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私のせいで
たくさんの人が苦しんでる
君もそのひとりだった
ごめんね
何もしてあげられなくて
傷つけて
ごめんなさい



 ● ●



霜月が自分の仲間を斬りつけ、私が大人しく殺されなければ、他の三人を殺すと、私にそう宣言した。霜月の目は誰が見ても分かるほど本気だった。もう私の目の前で、誰も死んで欲しくなかったから、私は決意を固めて霜月の方へと歩み寄った。

「斬魄刀、捨てなさい」
「…」

私は大人しく霜月に従い、自分の斬魄刀を床に置いた。ちらりと目をやれば、体を寄せ合って怯えている三人。怪我をした一人は、そんなに傷が深いわけでもないようだったので、とりあえずは一安心である。しかしそれでも刀傷である、急いで手当をさせなければ。

「そんな近くじゃ捨てたことにならないでしょ」
「…」
「もっと遠くに投げ捨てろっつってんの」
「…」

私は霜月を睨みつけ、自分の斬魄刀を遠くに投げた。ごめんね、と心の中で何度も何度も自分の斬魄刀に呟いた。

「何その目。亜季に文句でもあるの?」
「…別に」
「何その口の聞き方。…あ、そっか。この三人どうなってもいいんだ」
「っ、待って!」
「じゃあ、なんてお返事すればいいのかなあ?」
「…文句は、ありません…」
「よろしい」

霜月は満足そうにそう言って笑った。

「後ろ向きなさい」
「…」

私は何も言わずに大人しく従う。すぐ後ろで霜月の気配を感じた。直後、頭に強い衝撃を受ける。

「――――――――っ!!」

どうやら鞘で頭を強く殴られたらしい。頭から血が流れ落ちる。

「声は出しちゃダメよ?まだ明るいからすぐ人が来ちゃう」
「…っ、」

霜月は鞘で何度も私を殴り続けた。何度も何度も、酷い衝撃が私を襲う。血が止め処なく溢れ出るのを、止めることなんて出来やしない。

―――しばらくそうして、殴り続けられていた。良く分からないが、その行為はとても長い時間行われていたように思う。

「…どう、神風サン?痛い?」
「…」
「痛いよね、見てて痛いもん」
「…」
「檜佐木副隊長といるアンタを見てる亜季の心は、もっと痛かったよ?」
「…なんで…」
「ん?」
「…なんで、そこまで…檜佐木副隊長に、こだわる、の…?」
「…知りたい?」
「アンタなら…他に、いい男…いっぱい寄って…くる、でしょ…」

霜月はただ私を見下していた。そしてポツリと呟いた。

「あの人だけだった」
「…?」
「亜季ねー九番隊に来る前、五番隊にいたの。昔の亜季ってば、アンタみたいに地味で根暗そーな子だった。おまけにトロくってさ」
「…」
「いっつもひとりだった、いつもいじめられてた」
「…」
「いつもみたいに亜季がいじめられてたら、そこへ檜佐木副隊長が来てねー、冴えない、地味な亜季を助けてくれた」
「…」

修兵は本当に、優しい。

「亜季は檜佐木副隊長に一目惚れした。廊下ですれ違っても、ちゃんと檜佐木副隊長は声かけてくれた。友達の居なかった亜季はねー、すっごい嬉しかったの。きっと檜佐木副隊長は、亜季の名前すら知らなかったと思う。それでも会うたび絶対声かけてくれたの。でもそのときの亜季はアンタみたいな女だったから、絶対檜佐木副隊長に似合わないって思った。だから亜季は頑張って可愛くなった。でも檜佐木副隊長には恋人が居た。認めたくないけどね、綺麗な人だった。あぁ、亜季なんかじゃ敵いっこない、そう思った」

淡々と、霜月は語っていく。

「しばらくして、亜季は念願の九番隊に移動になった。嬉しくて飛び跳ねたけど、副隊長は亜季のこと覚えてなかった。仕方ないと思ったよ、亜季前とは別人みたいに可愛くなったもん。それに檜佐木副隊長は、相変わらず恋人とラブラブだったし」

ふと霜月の目が、悲しい色に変わる。

「でも、あの事件があってから、檜佐木副隊長は変わった」
「…」

私は何も言えずにいた。

「前みたいに輝いてなかった、亜季が好きな副隊長とは別人みたいだった。だから亜季は心に誓ったの。亜季がこの人の心を癒そうって。亜季が副隊長の彼女になって、前みたいに笑って貰おうって。だけど二年たった今でも、副隊長から昔の恋人の姿は消えない。こんなに亜季が想ってるのに、振り向きもしてくれない」


「そしたらお前が現れた」


修兵の話をしていた霜月とは別人の顔で、私を睨みつける。

「お前は二年前のあのクソ女に似ていた。お前が檜佐木副隊長の心をかき乱して、あの人の昔の記憶を蘇らせた」
「…」
「死ねばいいって素直に思った」

霜月は今まで一番強く、鞘で私を殴った。私は思わず床に倒れこむ。

「お前のせいであの人は今苦しんでる。思い出してる、あの時の幸せだった日々。お前さえ現れなかったら、あの人はこんなに苦しまなかった。お前がいなくなったら、あの人は笑ってくれる―――そう思うだけで、亜季はお前を殺したくなる」

私は霜月を責める気にはならなかった。それだけ修兵を想ってて、修兵の変化に気付いてて、修兵が好きだったから、元凶である私を憎んだ。幸せだった頃の修兵も、今の修兵も、ずっと好きでいるんだ。

―――あぁ、霜月亜季は、何も悪くないじゃないか。

だけどね、間違ったことをしたね、霜月。お前は一番やっちゃいけないことをした。

「でも…それで…」
「…それで、なに?」
「それで…人を傷つけて…お前の想ってる人は、喜ぶの…?」
「…」
「いじめられてたなら…分かる、よね…いじめられてる気持ち…」
「そんなの忘れたね」
「嘘だ…それだけ、好きな人の痛みを、分かってあげられるなら、人の痛みが…分からない、はず、ない…よね…?」
「…黙れ…」
「こんなこと、したって…お前の大切な人は…喜ばない…!」
「――――っ、うるさい…うるさいうるさい!!」

霜月は何度も、私を鞘で殴りつけた。

「お前に、何が分かる!大切な人を、救ってあげられない辛さ!!分かるわけないだろ!!!」

霜月が私を殴りながら、そう叫んでいた。私の体から、殴られる衝撃が消えると、私はふと霜月を見上げた。すると、あの霜月亜季が、泣いているのが見えた。大切な人を救えない、己の非力さ故の涙。

「わ…かる、よ…」
「な、に…?」
「だれも、まもれ、ない…すくえない……わたし、が、そう…だから…」
「…」
「だいじなひと…まもれな、かった…だけど、きずつけたら…だめ、だよ…まもる、ために…きずつけちゃ、だめだ…」
「…クズの分際で…」


「クズの分際で、亜季に説教なんてしないでくれる?」


霜月の顔から、涙は消えていた。笑顔もなく、ただその表情は、憎しみで溢れていた。

―――あの時の修兵と、同じ顔だ。

「お前のせいだ」
「…」
「亜季の積み上げてきたもの、全部ぶち壊した。お前のせいで、亜季は副隊長に嫌われてるんだよ」
「…」
「お前なんて……」



「 殺 し て や る 」



あの日の修兵と、同じことを、私は、させている。



私は天使さえも悪魔にしてしまう獣。
(本当は君は優しい人なのに)


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