08(9/35)


貴方に怯え 過ごす毎日
そんな日々も 長くは続く事はない
穢れた私は神に嫌われてるから
綺麗な貴方と共に過ごす事は 許されないんだろう



 ● ●



今日から私は九番隊として毎日を過ごす。朝、早めに目が覚めてしまった私は、少し早いが九番隊の詰所に向かった。

詰所に入ると、さすがにまだ誰も居ない。私は、辺りを見渡した。あの頃と、あまり変わらないその詰所の内部。

その中で、私はあるものを見つけてしまった。それは私の机だった、三席の机。二年前と同じ場所にあって、綺麗に掃除もされていた。きっと平隊員の誰かが掃除し続けていたんだろう。私は、その席に近づいた。

ふと見ると、机の上に写真があった。その写真をそっと取って見つめる。

「…まだあったんだ…この写真…」

ポツリと呟いた。その写真に写っていたのは、私とあの人がふたりで写っている写真だった。いつ見ても綺麗だと思った。

私の、大事な―――――……。

「お、蓮華。もう来てたのか?」
「あ……檜佐木副隊長…おはようございます」
「おー。つーか何見てるんだ?」
「え、いえ…あの…」

私は慌てて写真を戻した。その行動を、副隊長である修兵が見逃すわけがない。

「何見てたんだよ?」
「いえ、別に…何も…」
「嘘付け、今何か見てただろ?」

そう言って修兵は私に近寄る。私はそんな修兵と顔を合わす事なんで出来ず、ただ俯いて少しずつ後ずさりするだけ。修兵はお構いなしに近寄ってくる。


怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い


そんな気持ちでいっぱいになる。体は震えだし、涙が溜まってくる。俯く事も辛くなり逃げ出してしまいそうになる。

「…おい、大丈夫か?」
「…」

修兵はすぐに私の異変に気付いた。恐怖で答える事も出来ない、私。修兵はきっと困り果てているのだろう、修兵が軽く溜め息をついたのでそう感じた。

「お前さぁ、俺の事嫌ってねぇ?」
「そんな事、ありません…」
「ならもっと気軽そうに話してくれねぇと…」
「平隊員が副隊長にその様な事…出来るわけ、ありません…」
「…お堅ぇヤツですね」
「…敬語になってませんよ、それ」
「なーんだ、ちゃんと突っ込むとこ分かってんじゃねぇか」

いきなり何を言うんだこの人は。私は驚いて、思わず顔を上げてる。

私は薄っすらと涙を溜めていた
という事は?

私の目は今は、ほんの微かに、青いはず。私の目は、いつもと全然、違うはず。

修兵は顔を歪めた。一瞬修兵の顔を見た時、凄く優しそうに微笑んでいたのに、今の修兵は怖い顔をしている。間違いない、見られた。私のこの瞳を、この特異な瞳を。

あの人と同じ、この瞳を。

「蓮華お前…」

あぁ、もう逃げられないのか。私がそう思い、もう全てを諦めた―――

―――その時だった。

「おはよ〜ございまぁす!檜佐木副隊長!」

何人かの女性隊員が修兵に声を掛けた。この隊で、修兵は人気者。見た目だけでなく、性格もいいし、強い。モテるのは目に見えている事だ。

「おー…オス」
「きゃ――――ッ!副隊長―――ッ!!」

声を揃えて言う女隊員に修兵は困ったような顔をする。修兵は昔からこんな感じで追い回されていたが、いつもそれを嫌がっていた。どうやらそれは今も変わらないらしい。

私はその隙を見てその場から逃げ出した。修兵は私に声をかけようとしていたが、そんな事はどうでもいい。

ただ逃げた。

逃げて逃げて逃げて、あの人の手が私を捕らえられないように。あの人の手に私が捕らえられないために。




気付けば三番隊の前に居た。私は誰も居ないその詰所に入っていく。何故ここへきたのかは分からない。けれど、体が勝手にそうしていた。

私は三番隊の詰所に入ると、そのまま隊首室へ向かう。涙は頬を伝っているし、瞳は青いし、目は腫れている。そんな姿、普通なら他人には見せたくないけれど、隊首室に居る人になら別に見せても構わないから。

私は隊首室の隅に座り込み、声を抑えて、ただ泣いた。邪魔な瓶底眼鏡を放り出して、嗚咽も漏らさずに泣いた。少しして、そっと隊首室の扉が開いて、私は顔を上げる。

「…神風さん?」
「…吉良、副隊長…」

扉を開けたのは、三番隊の副隊長である吉良イヅル。副隊長は何か大きなものを掴んで引っ張っていたらしい。その何かが、私の名前を聞いた途端に反応を示した。

「神風!?蓮華ちゃんがそこに居るんか!?」

副隊長の手からバッと離れると、その何かが私を見た。そう、その何かとは三番隊の隊長である市丸ギン。市丸隊長は慌てて私の所に駆け寄る。

「蓮華ちゃん!?どなえしたんや!?」
「隊長…私…」

市丸隊長は私がそこまで言うと、そっと私を抱き寄せた。

「…やっぱり九番隊はキツかったんやな…」

私はただ首を縦に振る事しか出来なかった。

「ごめんなぁ蓮華ちゃん…ボクのせいや…」

声は出なかった。ただ首を何度も横に振った。そんな私を慰めるように、市丸隊長は優しく私の頭を撫でた。不覚にもその行動を心地良いと思ってしまう自分が居た。優しくされる価値なんか、ないのに。

私は慌てて市丸隊長から体を離す。が、それでも隊長は私を引き寄せる。

「隊長…私は、汚れ「蓮華ちゃんは綺麗やで」

私の言葉を隊長は遮った。

「それにな、ボクはアイツに君を頼まれとるんやで?」
「…それは…」
「もし君を『汚い』って思っとるんやったら、君の面倒見てないやろ?」

私は何も言えなかった。

「イヅルー、悪いけどボク今日は仕事できそうにないー」
「…分かりましたよ…それに『今日も』ですからね?間違えないで下さい」
「はーい」

副隊長は静かにこの場を後にした。隊長は嬉しそうに微笑んでそれを見送り、見送り終えた隊長はそのまま私を見つめる。いつも通りの笑み、でもいつもとは違う悲しそうな笑み。

「蓮華ちゃん、今日はここにずっとおり?」
「でも…それじゃ隊長に迷惑が「蓮華ちゃん」

隊長は私の言葉を遮って、そのまま自分の言葉を繋いだ。

「蓮華ちゃんが自分で望んでここに来てくれたんやろ?」
「はい…」
「気持ち楽に、なりたかったんやろ?」
「…はい…」
「そんな日ぐらい、昔みたいに呼んでくれた方がボク嬉しい」
「でも…」
「その方が気使わんでええし、蓮華ちゃん楽やろ?」
「そ、れは…そうだけど…」
「アカンか?」
「…分かったよ…ギン」

私がそう言うと、隊長…ギンは私を優しく撫でた。

「蓮華ちゃん、九番隊の誰かが迎えに来るまでここで隠れてていいからな?」
「うん…ありがとね」
「いつでも戻って来てええって言うたやろ?」
「そだね…」
「ゆっくりして行き」
「うん…」

ギンは私を離すと、そのまま私を隊首室にあるソファまで抱えてそこに寝かせた。

「そのままでいいから、今日までのこと話してくれる?」

私は頷き、今までの修兵との出来事をゆっくりギンに話した。



私は、神に見捨てられた汚れた獣。
(神様なんていないけど)


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