「ねぇ百春、起きてってば」
「…後10分」
「もー」

ここは花園家。
千秋が明日まで気を使って留守にしてくれてるので、百春の彼女である私は今日ここにお泊まりする予定。まぁ、千秋が居ても泊まったりはするんだけどね、花園兄弟とは幼馴染だし。

「ほら百春、10分たったよ」
「…後10分」
「今日映画連れて行ってくれるって言ったじゃん」
「…まだ時間あんだろ」
「むぅ…」

百春は今寝ています。昨日の練習キツかったのはマドカから聞いたけど、映画の約束は果たしてもらわなきゃ。だって、今日でこの映画終わるんだもん。私が一番見たかったやつだし、絶対連れてってもらわなければ、きっと一生後悔する!
…っていうくらい、見たい映画なわけだ。

「百春ー起きてよーもうすぐお昼だよ?」
「…ヤダ」
「はぁ?映画どーすんのよ」
「明日連れてく」
「明日じゃ終わってるもん」
「じゃあDVD借りればいいだろ」
「そんな先まで待てない」

そんな言い方、あんまりだ。珍しく千秋が気使って二人っきりにしてくれたっていうのに(嫌々だったけど)。たまのそんな日くらい、2人で仲良くする時間が欲しいと思うのは、私だけでしょうか。

「明日千秋帰って来るんだよ?」
「そうだな…」
「そしたら、また千秋に妨害されまくるんだよ?」
「んー…」
「イチャつけないんですよー?」
「んー……」

あーもーダメだ。こうなったらもう百春は起きない。そうとは分かっていて、私は声をかけ続ける。

「折角チケット買ったのに、勿体無いじゃんバカドジマヌケ」
「…………」
「リーゼントー不良かぶれー将来ハゲー」
「…………」
「…百春?」
「…………」

本気で眠りについてしまったリーゼント野郎。せめてチケット代かえせよ、と心の中で悪態をつく。

「本気で暇なんですけどー」

百春のほっぺたをつつきながら言う。でもやっぱり、起きる気配はない。映画のチケットが一枚無駄になるのも嫌なので、誰か誘ってみることにしようか。

やっぱりマドカ?

いや、ダメだ。マドカ、今日は空くんに誘われてるんだった。結構やるじゃない空くん、と思うと、思わずにやける。

なら千秋?

…でも折角気つかってくれたのに、千秋を誘うのもそれはそれでどうかと思う。きっといろいろ文句を言われるに違いない。そんな面倒なことは、出来るだけ避けたいと思うのは、人間の本能だ。

じゃあヤスあたり?

あ、でもヤス達もどっか出かけるんだったっけ。映画なんて興味ないだろうし、あまってるの1枚だけだしなあ。

なら――――……

「…健二くんでも誘うか」

健二くんは、今日は暇だって言っていた。練習で疲れてないかな、ゆっくりしたいんじゃないかな、そんな思考が頭を巡る。そのときはそのときで諦めて、大人しく一人でいけばいいか、なんて思いながら、私は携帯を開いた。


そのとき、


「―――他の男とデートか?」


不機嫌そうに、百春が私を睨みつけて来た。

「…百春、いつ起きたの?」
「さっき」
「盗み聞きなんて趣味悪くない?」
「自分の男の目の前で浮気しようとする方が趣味悪ぃ」
「別に浮気しようとなんてしてませーん」
「じゃあ何でトビにメール入れようとしてんだよ」
「だって百春が構ってくれないし。暇だし」
「なんでトビなんだよ」
「だって、マドカ誘いたくても今日はマドカ空君とデートだよ?」
「他の女子は?」
「昨日はみんなデートとかの予約が入ってたの。いつも部活でしょ?」
「だからトビ?」
「千秋と居るよりは安心じゃない。映画のチケットも勿体無いし」

そう言って百春の前でスネてやった。今回は絶対に、構ってくれない百春が悪い。

「だから健二くんと映画行って―――…!?」

行って来る、そう言おうとしたのに、私の口からその言葉が発せられることはなかった。腕を強くつかまれ引き寄せられたかと思うと、百春のベッドの中に私はいて、百春は私を抱きしめたまま目を瞑っている。

「…おいこら百春」
「なんだよ」
「なんだよじゃなくて、私映画に行きたいの。寝たいわけじゃないの」
「じゃあ一人で行けよ」
「健二くんと行くの」
「行かせるかよ」
「なに?嫉妬?」
「……」
「…え、図星?」

まさかの百春の嫉妬に、思わず嬉しさがこみ上げる。そんな百春があんまり可愛いから、からかってやった。

「へー、百春も嫉妬するんだねー」
「……」
「そんなに私のこと好き?好きなんだ」
「…うるせぇ」
「百春が嫉妬してくれちゃうんなら、私いつでも男の人に連絡しちゃう――「うるせぇって言ってんだろ」

そう言って百春は私を組み敷くと、強引に唇を塞いだ。それは次第に深いものになっていって、酸素が足りなくなってきた私は百春の胸を叩いた。最後にちゅっと軽く音を立てながら唇を離した百春は、じーっと私を見つめている。

「っはぁ……も、百春…?」
「お前が悪い」
「え…?」
「そんなかっこしてトビと二人でデートするなんて言い出す、お前が悪い」

そう言うと、百春は再び私の唇を塞いだ。どう考えても悪いのは百春なのに、どうして私が悪者になってるのよ。もちろんそんなの、納得いかない。

「っ、百春っ」
「なに?」

唇が離れた瞬間を見計らって声を荒げる。目の前には、涼しい顔した百春。

「元はといえば百春が悪いんでしょ!映画行く約束だったのに!」
「だからお前が悪い」
「なんで!」
「そんな可愛いかっこしてる彼女、他の男に見せてたまるか」

あぁもうどうしてさらっとそういうこと言うかな。大好きな彼氏にこんなこと言われたら、嬉しくないわけないじゃない。

「…じゃあ着替えるから、映画行こうよ」
「今日、千秋が家にいるなら映画でも良かったんだけどな」
「なんでよ」
「あいつ邪魔だから」
「…」
「その邪魔者が家にいないから、俺はお前と家にいたいわけ」

この男は、いつからこんな口説き文句言うようになったんだろう。こんなこと言われたら、もう逆らう気になんてなれない。

「…しゃーなしだからね」
「素直じゃねぇの」

そんな憎まれ口叩きながら百春は嬉しそうに笑って、そして私にキスをした。ほんとは流されたくないのに、結局まあいっか、なんて思って流される私は、結局この男に弱いんだ。

仕方ないから、今日はこのカワイイ金髪のワガママに付き合ってあげよう。映画は今度、DVD借りてきて一緒に見ようかな。きっとそのときは千秋も一緒なんだろうけど。

先のことを考えながら、私は百春に溺れた。



可愛い嫉妬
(あなたの嫉妬に完敗!)

2005.10.02
2011.09.15 修正


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