願う角には福来たる
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七夕ねぇ...そんな行事で浮かれる年でもないし...願い事ぶら下げて他人に見られたりなんかしたら恥ずかしさくらい...
「おい、どうした総司。てめーもなんか願い事あんのか?」
僕に後ろから声をかけてくれたのは、何時も口煩くて世話焼きで...僕に構ってくる
どうしようもないお節介な...僕の恋人の土方先生。
なんて言うのは言い過ぎで最近は仕事に追われて僕の為に時間を割くこともできないみたい...
けど寂しいなんて言いたくないし...がらじゃないかな。
「何ですか?僕の事子供扱いしないでくれません」
青々しい笹の葉から目を反らし振り返えれば、“悪いな、そんなつもりはねーよ”と
頭を掻き申し訳ないなさそうに瞳を揺らす土方先生。
「...それに、願ったて全て叶う訳でもないですし...願いってのは自分で叶える物、そうでしょ」
赤や青、黄色、紫とカラフルな短冊が笹の葉を飾り付ける様はまるでクリスマスに見るツリーみたいで綺麗だ。
短冊には思い思い願い事が達筆な文字で綴られていた。
どの願いもこの高校に入学したばかりの不安の取れない一年生が吊るしたものだった。
高校生にもなって、て思うけどこんな行事も可愛いのかもしれない。
けど、僕は...。
「まぁ、そうだな。一番大事なのは願うことじゃねぇ...精一杯努力する事だ」
強く言い聞かせるようなはっきりとした声...僕は何度この人の事を好きになっただろうか。
時には頑固で自分の考えを曲げない強い信念、それはもう面倒くさいなんて感じたのも事実。
でも、やはり自分を引っ張り導いてくれる存在なのだ。
「あの、土方先生...今日は一緒に帰れますか」
この頃忙しいのは分かるけど今日は...と期待を込めて聞いてみた。
そうすれば土方先生は眉間に皺を寄せる。
けれどそれは怒る時の顔ではなくて困る時のそれだった。
嗚呼、忙しいんだ。
寂しいを通り越したのか僕の感情は冷静に物事を理解してまたか、と空虚感に捕らわれた。
「すまねぇな、今夜も残業になりそうだ...お前を待たせる訳にもいかないし」
紫の瞳が僕から外されれば口ごもり途切れる言葉。
次に来るのは、帰って欲しい。
僕はこの言葉の綴りをよく知っている。
土方先生はあまり生徒を遅くまで残らせる事を良く思っていないし、僕の事となると尚更で、心配されてるということ事態は嬉しくて...其なのに苦しくて複雑だ。
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