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紳士×長男

小さい頃1つ年下の弟の晃樹(こうき)とおもちゃの取り合いをした時、母さんに「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」と怒られた。
『俺はお兄ちゃんだから我慢しなきゃいけない』
その言葉がストンと胸に落ちた。
さっきまで取り合っていたおもちゃを弟に渡し、「ごめんね」と言うと、弟はおもちゃを受け取り、楽しそうに遊び始めた。


俺も晃樹も小学生になった頃、両親は離婚した。俺と晃樹は母さんについていき、母さんは俺達を養う為に働きはじめた。
母さんは「お母さんがいない間、晃樹をよろしくね」「お兄ちゃんだから頑張れるよね」と俺に言ってきた。
『仕事で忙しい母さん1人じゃ大変だからお兄ちゃんの俺が頑張らないと!それに晃樹は俺が居てあげないと!』と、俺の中でより一層お兄ちゃんとしての責任感が芽生えた。


母さんが家では少しでも休めるようにと家事は全て俺がやり、晃樹の面倒も俺がみた。
俺の後ろをずっと付いてきてくれる晃樹はそれはもう可愛く、これでもかって程甘やかした。そのせいか晃樹は少し頭が緩く育った。

「ごめん兄ちゃん遊びに行くからお金かして〜」
「しょうがないなー」
晃樹は特に金銭感覚が緩く。お金を持つとすぐに使い切ってしまう。
それを俺はわかってはいるが、晃樹がお金に困っているというのが可哀想で、俺は直ぐにお金を渡してしまう。
だけど「ありがと〜」とヘラッと笑ってお礼を言う晃樹は相変わらず可愛く、きっと俺はこの弟に一生甘いんだろうなと自覚している。




朝、晃樹が遊びに行くからとお金を渡し見送った後、のんびりと家の掃除をしていると家の電話が鳴った。

『もしもし〜俺俺』
「?晃樹か?どうした?なんで家電にかけてきたんだ?」
『いやちょっとスマホ壊れちゃってさ〜、それより実はさっき事故ちゃって今すぐ100万ぐらいお金が必要なんだよ』
「ひゃ、100万!?」
『そー、どうしよう。助けて』
晃樹が事故、100万、と色々驚くことはあったが、それよりも晃樹からの『助けて』という言葉に一気に我に返った。

「大丈夫だ、お兄ちゃんに任せて。それより晃樹に怪我はないのか?」
『俺も少し怪我して今は病院なんだよ。だからあとは電話かけられないから、16時までに◯◯銀行に振り込んでほしい〜』
「!?わかった」
全てを投げ出し、急いでスマホのある番号に電話をかけた。

「月島さんですか?今から会えませんか?」






急いで待ち合わせ場所に行くと、周りの女性全てが真剣な面持ちのイケメンをチラチラと見ていた。
息を整えながら歩みを進めると、イケメンはこちらに気付き満面の笑みへと変わった。

「知樹(ともき)くん。君から僕を呼び出すなんて珍しいね、どうしたの?」
「月島さん今俺に何かして欲しいことはないですか?脇ぺろぺろしてもいいし、膝枕でも添い寝でもなんでもするのでお金ください」
笑顔のまま月島さんは固まり、「知樹くん、ここじゃなくて向こうへ行って話しようか」と目の前の大きな会社へと入った。

一室につき扉が閉まった瞬間、月島さんの手を取り「前酔った時に脇ぺろぺろしたいって言ってたじゃ無いですか。俺のでよければいくらでもしていいのでお金をください」
月島さんは俺が掴んでいない方の手で顔を覆い、「正直したい。したいけど駄目だよ知樹くん……。お願いだから誘惑しないで……」と。
したいならすればいいのに、月島さんは変に頑固だ。

「まず落ち着いて知樹くん。一体何があったの?」







一通り話終わると「それオレオレ詐欺だと思うけど?弟くんに電話して確認してみたら?」と言われた。
オレオレ詐欺?
一旦晃樹に電話かけてみるといつも通り『もしもし〜?どうしたの〜?』と緩い声が聞こえた。

「晃樹さっき事故にあったって連絡したろ?大丈夫か?」
『?何言ってるの?事故にあってないし、兄ちゃんに電話もしてないよ〜?』
「そ、そうか……ならよかった。安心した。遊んでる最中だったのにごめんな」
電話を切り、へなへなとへたり込んだ。晃樹が無事で良かった。怪我が無いなら尚更のことよかった。

「月島さんありがとうございました。本当に助かりました。俺1人じゃどうすればいいのかわからなくて、咄嗟に月島さんの顔が浮かんで連絡しちゃいました」
「知樹くんに頼ってもらえるなんて本望だよ。でもお金欲しいからって簡単に自分を売っちゃダメだよ。それに知樹くんになら僕いくらでもあげるし、知樹くんが居てくれれば見返りなんていらないから」
紳士的な月島さんに感謝の気持ちでいっぱいになる。
だけど本音では俺にエロいことしたいってことを俺は知っている。
それなのにそれを必死で我慢してるところを含め、本当に月島さんは良い人だ。









補足

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