短編2 | ナノ


▼ 幸運体質×恥ずかしがり屋3

リクエスト


今、何か昴に言っても火に油になるだろうなと慌てながらも懸命に頭を回転させた。
ことの元凶である渚は俺の背中を蹴った後、直ぐに帰ってしまったらしく、もう屋上にはいない。

どうしようかとまだ涙が止まらない昴を見ると、パチリと目があった。
必死に涙を止めようと擦ったせいで目は赤くなり、これ以上声が出ないように唇をキツく結ぶ姿は、昴には悪いがやっぱり可愛いなとニヤケてしまう。
昴の恥ずかしがる姿はいくらでも見てられるなとボーッと昴を見つめていると、昴は視線をあちらこちらへと移した後、走って屋上から去ってしまった。

今更遅いがニヤケた口元を手で隠し、一連の昴の様子を振り返る。
あー……、恥ずかしくて泣くなんて可愛すぎだろ……


ニヤケが落ち着いた頃教室に戻ると、渚にはワザとらしくそっぽを向かれた。
興味もないのでそのまま自分の席へと行き、既に席に着いている昴をうかがうと、顔を窓へと向けていた。
だけど見えている耳が赤く色付いており、恥ずかしがっているのだと一目でわかる。
っ、可愛い……

本当に俺と同い年の男子高校生なのかと疑うほど可愛い昴の抵抗に、静かに悶えた。
だけどこの様子だとしばらくは昴の恥ずかしさがなくなるまで待つしかないなと大人しく席に着き、前を向いた。







2.3日が経ち、そろそろいいだろうと昴に話しかけたが直ぐに逃げられてしまった。
視線さえも合わず、他の人とは普通なのに俺にだけあからさまな態度を向けてくる。
そのことに他の奴らも気付いたようで、この学校に転校してから出来た友達に『涼さぁ、お前さては村越に相当酷いことしたな』と聞かれた。

「違うんだって、俺はたまたまラッキーが起こっただけでその元凶は渚だから!
いつまでも恥ずかしがってる昴も可愛いけど、俺としてはそろそろ昴と普通に話したいんだよな……」
「渚かぁ……あいつ可愛いけど気が強いからな、ドンマイとしか言えねぇわ」
「ってか、ラッキーってどうせまたスケべな方のラッキーだろ?村越くん可哀想ー」
「仕方ないだろ、そういう体質なんだ」
2人と仲良くなってから教えてもらった話だが、昴はクラスで密かに愛でられているらしい。
見た目は平凡だがすごく恥ずかしがり屋で、直ぐに顔を赤くしたり、蚊の鳴くような声になる 昴にクラスのみんなは癒されているそうだ。
確かに優しく慎ましやかで恥ずかしがり屋な昴は大変可愛く癒されるが、それが俺だけでなく既に周知の事実だったのかと知った時はだいぶ悔しかった。



さらに数日が経ち、1週間はゆうに経過した。
それでも昴の態度は相変わらずで、日々癒しが足りなく、生活にハリがない。
あんだけ毎日のように続いていたラッキースケべもあれは何だったんだと思うほど今は全く。

日に日にイライラはたまり、それを発散させようとカツアゲされてる奴やナンパされてる女の子を助けるという名目で不良共に喧嘩を売ったりもした。
それでもやっぱりイライラは収まらずもう学校に行くのが嫌だなと思い眠り、朝目が覚めると、時計がいつも家を出る時間を差していた。
どうやら時計が故障したらしく、いつもの時間にセットしていたのに鳴ってくれなかった。
慌てて準備を整え学校に向かったが、急いだにも関わらずギリギリアウトになり、朝食も食べ損ねた。
最悪だと項垂れたが、それだけに飽き足らず、急いで家を出たせいで今日提出するはずだったノートを家に忘れたり、段差に気付かず躓いてコケたりとアンラッキーが続いた。

1日で起きたアンラッキーは小さいものから大きいものまで数えきれないほど起こった。
だけどようやくすべての授業を乗り越えSHRも終わり、今日は寄り道せず大人しく家に帰ろうと教室から出ようとしたが、その前に「待ちなさいよ」と渚に引き止められた。
文句を言おうとしたが、その前に「いいからついて来なさい」と有無を言わさず屋上へと連れてかれた。


「何?」
「一度ならず二度までも変態行為しといてその態度は何なのよ!全然謝りにも来ないしいい加減にしなさいよ」
仁王立ちになり、腰に手を当てる渚にプチンと頭で何かが切れる音がした。

「いい加減にしろと言いたいのはこっちの方なんだが……
見たことに対しては謝るが不可抗力なのに殴ったり蹴ったり、お前こそその態度は何なんだよ。
俺のことが好きで俺に構って欲しいんだろうけど、俺はお前のこと大っ嫌いだからな。もう俺に話しかけてくんじゃねぇ!!」
イライラから八つ当たりをしてしまった自覚はある。
だけど渚のせいで昴と話せてないのに、ハイハイと今回は大人しく聞き流してやることはできない。
今度こそ帰ろうと下駄箱に向かうが、「新山!丁度いいところにいた」と誰かに声を掛けられた。




何なんだよ全く。
今日提出するはずだったノートを忘れてしまった教科の教師に会ってしまい、『ノートは明日まで待ってやるから、その代わりこの本を図書室に持って行ってくれ』と数冊の分厚い本を渡された。

未だかつてない程のアンラッキーデイにイライラしながらも図書室の扉を開けると、何故かそこには昴がいた。
扉の音で反射的にこちらに視線を向けた昴と1週間ぶりに目が合う。
昴は直ぐに俺だと気付き、目を大きく見開かせたあと急いで手元にある本へと視線を戻した。

可愛い……
今、昴がどんな顔しているのか見てみたい。
教師から渡された本を適当に返却ボックスに入れ、昴へと近づく。

「昴って図書委員だったんだな」
「……」
本を見る昴の前に立ち、しゃがんで下から昴の顔を覗くと案の定顔を赤くしていた。
あんなにイライラしてたのに、そのイライラがスーッと抜けていく。

図書委員の当番だからその場を離れられないのか、こんなに近くにいるのにいつもみたいに逃げようとはしない。
それが嬉しくて久しぶりの昴を堪能しようとジーッと見ていると、昴は本を置いて俺の目を手で隠した。

「新山くん……見過ぎ……」
「久しぶりの昴だから」
「……あの、最近避けちゃってごめんなさい。あの日以降新山くん見るとあの日の恥ずかしさを思い出しちゃって、その、平静ではいられなくて……」
「昴が恥ずかしがり屋なこと知ってるから平気。俺こそごめんな。渚みたいに怒ってくれていいんだからな。それだけのことを俺はしちゃったし」
「……っ!あれは、不可抗力だよ……」
「俺も悪いことしたって思ってる。だからちゃんと怒ってよ」
「え?ん、じゃあ……新山くんの変態」
「……何それ」
「ごめん、やっぱり……」
「っ最高!昴に変態って言われるの良い。可愛いし、めっちゃキタ」
「新山くん……」
昴の手で見えていないが声色で戸惑っているのがよくわかる。
昴の手を目から退かすと、案の定困ったように笑っている昴がいた。

その顔は、最高に可愛いかった。








補足

prev / next

[ back to top ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -