短編2 | ナノ


▼ 生徒会長×風紀委員長

『お金持ちの御曹司ばかりが通う、由緒正しき全寮制学園』
なんて聞こえはいいが、実際は思春期の男共をギュッと押し込んだだけのホモ学園と言っても過言ではない。
大抵の奴は学園から卒業すればノーマルに戻るが、学園に在籍している間は周りには男しか居ないということで、自然と性の対象が男になる。
そんな変わった学園に俺も中等部から編入したが、心構えもあったおかげか、学園には染まらず高3になるまでノンケを貫いた。
そしてあと1年で卒業という春、父親に腫瘍が見つかった。

幸い良性で、切除すれば命に別状が無いと医者から言われたが、父親は死を覚悟してしまい、跡継ぎがなんだ、遺産がなんだと騒ぎ始めた。
家族も医者も「大丈夫だ」と父親に呼びかけても、「いやもう俺はダメだ……こういうことは自分でわかるんだよ」と言い出す始末。
そんな父親の暴走を止めるため、学園には休学届けを出し、家族総出で1年がかかりで父親を止めた。
最近になってようやく父親が「まだまだ俺は現役だぞ」と言うようになり、いい年したおっさんに振り回される生活が終わった。


本来なら今頃大学生になってるはずが、他の奴より1年遅れで、やっと俺は3年生生活を送れることになった。

始業式に合わせて学園へと戻ってくると、自室より先に、自然と足が風紀室へと向かった。
1年前と全く変わらない内装は懐かしかったが、誰も居ない風紀室を見て、俺は1人ぼっちなんだなと自覚した。
今の学園にはもう、友人も同級生だった風紀委員の仲間達も皆卒業してしまっていない。
風紀委員という仕事上、問題児の下級生や風紀委員の下級生なら何人か覚えているが、他は全く知らない。
1人この学園に置いていかれたようで、正直不安で仕方ない。

1年前と全く変わらない風紀室を眺めていると、ガチャリと扉が開かれた。
扉を見ると見知った顔がおり、確か友人から聞いた話では今期の風紀副委員長だとか。

「お久し振りです。お家が大変だったと聞いたんですが、もう大丈夫なんですか?」
「ああ、まぁなんとかな」
下級生ということもあって小城(おぎ)とはあまり接点は無かったが、男にしては綺麗な顔をしていたことで深く印象に残っている。

俺が学園に居なかった間、何か変わったことはなかったかと小城に聞くと、含み笑いで「革命が起きましたよ」と言われた。
意味がわからずさらに突っ込んで聞いてみると、折りたたまれた紙を渡された。

「元生徒会長の連絡先です。卒業の時に風紀委員長に渡すよう頼まれました。
学園で起こったことについては、彼の口から聞いてあげてください」
元生徒会長だった園崎(そのざき)からだと言い、紙を受け取って中を見てみると、電話番号だけが書かれていた。
園崎とは俺が中等部に編入した頃からの仲で、会えば嫌味の言い合いをしていたが、そんな園崎から連絡先をもらうなんてこの1年の間に一体何が起こったというんだ。

園崎に連絡するのは寮に帰ってからにして、とりあえず風紀の仕事について、小城と少しだけ話し合った。






紙と画面を何度も見返したあと、携帯を耳に当てた。
コール音が数回鳴った後、『はい』という懐かしい声が聞こえた。
犬猿の仲ではあったが、今日1日ほとんど知らない奴等と接してた分、知った声に少しだけ緊張がほぐれた。

「園崎か?小城から連絡するよう言われたんだが何なんだ?」
『久しいな、小沼(こぬま)。元気にしてたか?』
「……どうしたんだよお前。前はそんな感じじゃなかったろうが」
『お前の居ない1年の間に色々あったんだよ』
「ああなんか小城曰く『革命』が起こったんだって?」
『そうだ、この1年間で色んなことがあった。今からその話を掻い摘んで語ってやりたいんだが、生憎今は少し忙しくてな。明日の夜、俺から電話する』
「そうなのか……忙しいところにすまんな。じゃあ明日でいい」
『いや、俺から連絡するよう頼んだのに悪りぃな。ただ1つ忠告しておくが、現生徒会長に絶対惚れるなよ』
学園にいた時の園崎とは全く違い、電話を切った後も本当にあれが園崎なのかどうか信じられない。
それに園崎が言っていた『現生徒会長に惚れるな』とはどういうことだ。
特殊な学園だが、そんな中でも俺はノンケだと園崎も理解してるはず。
それなのに、何故そんなことを言ってきたのか。

明日の夜事情を説明してくれると言っていたが、それまで待てるほど俺の性格は気長じゃない。
挨拶がてら、明日は生徒会室に行ってみるとするか。





明日に控える入学式と始業式の準備は既に午前中には終わらせた。

1年前までは度々訪れていた生徒会室の前で足を止め、軽くノックすると、一呼吸おいたあと中から『はーい、どうぞー!』と元気のいい声が聞こえた。

「失礼します」
風紀室同様1年前とはあまり変わった様子のない生徒会室の中には、パソコンに向かって真剣に作業している奴と、もう1人は椅子の上に胡座をかきながらお菓子を食べている奴がいた。

「ん?あんた誰?」
お菓子を食べていた奴が俺を見て目を丸くしてこちらを伺うので、驚いた。
この学園に通っていて俺を知らないとは。

「俺を知らないのか?」
「ぶはっ。ウケる。郁(いく)と同じこと言うのな。去年転校してきたから申し訳ないけどお前のこと知らねぇんだわ」
園崎の名前を出され、しかも園崎と全く同じ事を言ってしまったのかと、少しイラっとした。
だけど転校生なら俺を知らなくても当たり前かと、気を取り直して咳払いをしたあと名を名乗った。

「初めまして、俺は風紀委員長の小沼雅晴(まさはる)。家の事情で1年間ほど休学していた。
だから知らないのも当然だよな。変なこと言って申し訳ない。これからよろしく頼む」
「あー!雅晴が噂の風紀委員長なのか!俺は東雲遙(しののめはるか)こちらこそよろしく」
東雲は美少年と言っても良いほど顔が整っており、こんなアブノーマルな環境ではさぞかしモテるんだろうなと容易に想像ができた。
そんでこいつが園崎が言っていた現生徒会長なんだろう。
見た目は良いが、そもそも俺はノンケだし、会って数分の奴に名前で呼ばれるの自体あまり好きではない。
これなら園崎に忠告されなくとも惚れはしないだろう。

「なぁなぁ!雅晴はなんで休学してたんだよ。ってか休学してたってことは俺より1つ年上ってこと?」
「まぁ色々あってな……」
「色々ってなんだよー!」
めんどくさい。
園崎とはまた違っためんどくささにため息が出そうになる。

「遙、しつこいぞいい加減にしろ。
あといつまで休憩してんだよ。俺はもう終わったし、帰るからな」
さっきまでパソコンに向かって真剣に作業していた男は立ち上がり、俺の腕を掴んで一緒に生徒会室から出た。



「突然飛び出しちゃってすみません。ああなるとしつこくて、逃げるしかないんですよ。
あいつ昔っから自己中で、全然人の話を聞かないやつなんですけど、悪い奴ではないのでどうか嫌わないでください」
「ああ、わかった……」
生徒会室から少し離れた廊下で掴まれていた腕を離され、話し掛けられた。
パソコンに向かう横顔しか見えていなかったが、正面から見たそいつの顔は至って平凡で、親しみやすさはあった。

「園崎さんには何か困ったことがあれば小沼さんに聞けと言われているので、どうかよろしくお願いします」
「俺に出来ることなら何でも相談してくれ。……それより名前を聞いてもいいか?」
この学園は男しか居ない環境というせいで、顔が良い奴が上に立つ。
そのせいで生徒の象徴である生徒会のメンバーは、仕事の不出来よりも顔で選ばれる。
そんな生徒会に何故こんな平凡がいるのか。

「あっ、すみません。
改めまして、今期生徒会会長に任命されました豊口充弘(とよぐちみつひろ)です」
「生徒……会長?」
豊口というこの平凡な男が生徒会長?

平凡な豊口という男が生徒会にいること自体謎なのに、何故園崎はこんな平凡に惚れるなと忠告したんだ。







補足

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