「…なんか、すげーチグハグだな。」 「そう、か?」 「ん、まー、ある意味個性的で面白いけどよ…」 寝っ転がったまま苦戦するナルトを見上げ、シカマルはフッと笑った。 ナルトも首をかしげながらも穏やかな目でそれを見ている。 イルカは二人を見ながらおそらく何とかなるだろうと苦笑した。 根拠はないがきっと互いがいい作用をしていくだろうと感じ取ったのだった。 「仕方ないな…」 そう呟くとポンっと特有の音と共にイルカはナルトに変化した。 「いいか、これは一つの例と思えよ。実際はお前が作らなきゃならんのだから。」 「…わかった。」 「俺の名前はうずまきナルトだ!」 イルカはナルトの姿でパッと笑顔を作り、大きく明るい声で叫んだ。 ナルトもシカマルも目を見開いてしまった。 「…こんな顔が、できるの、か?」 「よくわかんねーけど、すげぇ何か衝撃。」 「うるさい。」 修行のためとはいえイルカも羞恥心が働いたらしく顔をそむけてしまった。 ナルトは少し考え込み、パッと顔を上げた。 「俺の名前はうずまきナルトだ。」 イルカが見せたのと同じ顔を作り、一息で言葉を紡いだ。 その変わりように今度はイルカも目を見開いた。 「流石に飲み込みは早いな…だがこれはあくまで例だし、声や勢いはまだ足りないな。」 ナルトを知らない人間が見れば騙せるだろう笑顔だ。 そう、確かに顔は笑ったのだが、声が顔についていっていなかったのだ。 顔をコピーするのに意識を向け過ぎたようだ。 「声か…難しいな。筋肉を、見て、わかるような、ものでも、ない。」 「筋肉ってお前な…」 「もう一度やってみろ。顔はそれでもいいから。」 (確かに…あの時の、子供は、声も、大きかったし、勢いも、あったか…。) ナルトはもう一度イメージをし、口を開いた。 「俺の名前はうずまきナルトだ。」 「少し声が出たが、まだまだだ。」 「俺の名前はうずまきナルトだ。」 「顔の意識がそれてるぞ、もっと声を張れ。」 「俺の名前はうずまきナルトだ!」 「勢いをつけると声が小さくなるな、同時にやるんだ。」 「俺の名前はうずまきナルトだ!」 「子供の勢いをイメージしろ。もう少し早口でもいい。」 「俺の名前はうずまきナルトだってばよ!」 …………………。 「「「…ん?」」」 「…だってばよって…」 「…なんだ今のは。」 「…わからない、勝手に、口から、出た。」 三人で虚をつかれたかのように時が止まってしまった。 だがイルカはすぐに立て直し、一息ついた。 「はぁ…だが、まぁ、最後のは及第点だな。」 「そうか。」 「だがそれを持続させなければいけないのを忘れるなよ。」 「……頑張るってばよ!」 …………………。 「だから何だそれは!」 「知らん。…勢いを、つけると、勝手に、出るんだ。」 「あー…でも馬鹿っぽいし、印象も強くなっていいんじゃねぇの?」 口癖ってのもキャラ作りにはいいだろ、とシカマルは笑った。 その後違う言葉にしてもたびたび出てくる語尾に、それを表の性格の口癖にするということで決定した。 「はぁ…あとはひたすら喋って鍛えろ。」 「わかったってばよ。」 「ナルト、顔が真顔になってっぞ。」 「む……」 シカマルが苦笑しながらナルトの頭を軽くはたいた。 対するナルトはどこか不満げな表情で顔の筋肉を揉んでいる。 その光景はじゃれあう普通の子供達のように見えるのは、イルカの欲目だろうか。 子供は毎日、確かな形を持って変化していく。 ほんの数年で自我を持ち、歩き、言葉を使い、文字を使う。 大人ではひどく時間のかかるような事でも、子供は何倍もの速さでその身に受け入れる。 その柔軟な頭で、体で。 蓄積されてきた人の生活という名の歴史に、新たな力が加わり成長していく。 だから人は進化し子は親を超えるのだ。 成長する子供とは、まさに先人が夢見た未来の形。 (こんなにもはっきりと、成長というものを見られるとはな…) イルカ本人もシカマルとナルトも気付いていないが、イルカは本当に優しげな目で二人を見ていた。 だが、まだ修行は始まったばかり。 ナルトの道も光がさしたばかりである。 →3へ TOPへ 小説TOPへ |